年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第105章

第1935回

 今のタデウシには、それは無理だろう、シャルロットはそう思った。
「そこで、ギュンターが口を開いた。『かりにかの女がフランスへ戻ったとしたら、かの女は間違いなく元のフィアンセと再婚する。再会した二人を見たら、周りの人たちが黙ってはいないはずだし、何よりも二人は愛し合っているからね。一方、かの女がワルシャワにとどまれば、あの男が指をくわえたまま黙って静観し続けるとは思えない。どちらにしてもあまり好ましい未来図でないにしても、究極の選択で、どちらかの男とかの女が<くっつく>とすれば、元のフィアンセの方がマシだ、というのがきみの考えらしいね。要するに、きみはフリーツェックが嫌いなんだ。自分が離れていったとき、彼がかの女に接近するのが許せないんだ』。その言葉を聞いて、タデックの顔が引きつったそうよ。どうやら図星だったみたい」
 シャルロットはタデウシの表情を思い浮かべた。この一日で、タデウシが知っている状況とは状況が一変してしまっている。ルジツキー氏もチャルトルィスキー氏も、これ以上シャルロットの問題には立ち入らないだろう。彼らも、シャルロットの子どもたちも、シャルロットがフリーデリックと再婚するだろうと考えている。考えてみると、自分がフランスへ帰るべきだと思っているのは、現時点では自分とタデウシだけのようだ。
「あなたの見たところ、ギュンターもスタフも、わたしがポーランドにとどまる方がいいと考えているのね?」
 マウゴジャータはちょっと考えてから答えた。
「スタフはそう考えていると思うわ。ギュンターは武装中立、といったところかしらね。この問題には関わりたくないと考えているように見えたわ。・・・それで? あなたはどう考えているの? まだフランスへ戻ろうと考えているの?」
 シャルロットは頷いた。「ええ。状況が許すなら、そうしたいと思っているわ」
「でもね、わたし思うんだけど、もしタデックを立ち直らせたいと本気で考えるなら、あなたはフリーデマン氏と再婚すべきじゃないかしら?」マウゴジャータがそう言ったので、シャルロットは目を丸くした。
 アントーニはあきれた、という表情を浮かべて妻を見た。「相変わらず極端だな」
「どうせなら、タデックに極端に嫌われてしまいなさいな。一パーセントも未練がない状態にしてしまった方が、彼のためなんじゃないかしら。あなたのことをすっぱりと諦めてしまった方が、彼は早く立ち直れるんじゃないかと思うの。だとすれば、あなたがすべきことは、彼が何よりも嫌がること・・・あなたがフリーデマン氏と結婚して幸せになることだわ」
「そんな理由で結婚を考える人なんていないと思うわ」シャルロットはちいさな声で抗議した。「そもそも、その論理はどこかおかしいわ。まず、わたしが幸せになるために必要なのは、フリーデマンさんではないわ。わたしは、フランスに帰りたいの。わたしが愛している男性がいるフランスへ」
「でも、フランスへ戻ったとして、彼があなたを選ぶとは限らないわ。一方、フリーデマンさんはあなたを心から望んでいる。そして、フリーデマンさんを選べば、タデックは未練なく次の恋に進むことができる。もしも、タデックの今後の幸せを心から願っているのなら、フリーデマンさんにしなさい」
 シャルロットは返事をするのを忘れて、ぽかんとマウゴジャータを見た。
「アントーニのいるところで話すことじゃないかもしれないけど、男性から求められて結婚するのは、とても心地のいいことよ。もっとも、彼がわたしのアントーニほどいい人かどうか、ということとは別問題だけど」
 アントーニは苦笑し、シャルロットの口元が緩んだ。
「そうね、確かにアントーニの方がいい人ね」シャルロットはそう答えた。
「それはどうも」アントーニは笑いをこらえるように言った。
 マウゴジャータはバッグの中から本を一冊取り出した。
「この件に対して、自分の考えは述べたわ。あと、ギュンターから、これを預かってきたわ。手紙がはさんでなかったことは確認済みよ。ギュンターも、そんなものは入れていない、と言っているし。彼は態度を明らかにしなかったけど、わたしが見たところ、この本に彼の本音が書かれているんじゃないのかしらね。じっくり読んでみて、彼の考えを読み取ってちょうだい」
 マウゴジャータは、本をシャルロットに押しつけるようにしながら手渡した。
「それじゃ、わたしたち、もう行くわね。結論が出たら、まっさきに教えてちょうだい。そうね、そのうち、<グラフィート>に顔を出して。みんな、あなたの結論に興味があるようだし、マスターが、久しぶりにあなたのヴァイオリンが聴きたいんですって」
 マウゴジャータはそう言うと、コートを手にした。その動作を見て、アントーニも同様に立ち上がった。
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