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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第12章

第218回

 エマニュエル=サンフルーリィ---正式にはエマニュエル=ド=サン=メラン---は、結婚式の翌月、ようやくパリでのすべての勉強を終えた。
 彼は、セザール=メランベルジェ校を卒業すると、北フランスのミュラーユリュードという町にあるサント=ヴェロニック校という私立学校のオーケストラのトレーナーとなった。彼は、こうして、指揮者としてのキャリアの最初の一歩を踏み出したのである。彼は、正式な席以外では、生涯このエマニュエル=サンフルーリィで通した。これは、彼の指揮者としての芸名であったばかりではなく、彼を育ててくれた養父母への感謝の気持ちでもあった。
 一方、クラリス=ド=ヴェルモン---正式にはマリー=クリスティアーヌ=ド=サン=メラン---も、生涯その名前で通した。かの女は、すでに、その名前で有名だったため、芸名を通さなければならない事情もあった。そうでなくても、かの女の名前は複雑で、正式な名前には<クラリス>はつかない。クラリス=フレデリックがかの女の洗礼名であるが、本名ではない。
 この二人は、本人たちにとっては使い慣れた名前を使い続けていたに過ぎないのだが、事情を知らない町の人たちは、不思議がって二人を見ることになる。
 さて、クラリスとエマニュエルは結婚式からひと月で、パリを離れることになった。彼らは、その選択を残念だとは思わなかった。ミュラーユリュードには、クラリスの父親違いの兄アレクサンドルとその妻エリザベートが住んでいたからである。
 エリザベート=ド=サックスは、6月末に男の子を死産していた。クラリスとエマニュエルが彼らの家を訪ねたときは、かの女はまだ病床にあった。この夫婦には、前年に生まれた女の子が一人いた。祖母の名前を取ってフランソワーズと名付けられた女の子は、驚くほどフランソワーズ=ド=ラヴェルダンそっくりな子どもであった。まだ1歳半にもならないのに、仕草の一つ一つがかの女の祖母を思わせ、クラリスは感動したのである。
 自分の子どもも、祖母に似るだろうか・・・? もしそうなら、会ったことがない自分の母親に会えるかも知れない・・・クラリスはそう思い、子どもの誕生を待ち望んだ。かの女は、自分の子どもが女の子だと思っていたのである。
 二人の新居が完成したのは、その2ヶ月後のことであった。
 ミュラーユリュードの隣町に、オート=サン=ミシェルという町がある。海沿いの町だが、エマニュエルが新居に選んだのは海のそばではなく、小高い丘の上であった。そこからは、海が見えるのはもちろん、あたりの美しい景色が一望できた。その丘を、地元の人たちは<コリーヌ=コンソナンス>と呼んでいた。コンソナンス丘という意味のこの名前は、もともとは丘の名前ではなかった。町には、4本の大きな通りが走っていたが、そのうちの二つ、コンソナンス通りとコリーヌ通りの終点がこの丘だったのである。エマニュエルは、この二つの通りが交わるところに煉瓦造りの家を建てた。いつのまにか、町の人たちは、この家を指して<コリーヌ=コンソナンス>と呼ぶようになった。
 1896年11月8日、クラリスは新居で男の子を出産した。その子には、子どもの祖父と父親の名前を取ってステファーヌ=フランソワ=ド=サン=メランと名付けられた。
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