FC2ブログ

年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第12章

第209回

 通常、ジュヌヴィエーヴとアレクサンドリーヌを見分けることは難しかった。ゴーティエとマルグリート兄妹だけはかの女たちを見間違えることはなかったが、他人が判別するのは困難だった。しかし、ルイ=フィリップだけは、初めて会ったとき一度だけ間違えただけで、その後二人を間違えたことはない。うり二つのかの女たちだったが、二人の性格はほとんど正反対に近かった。ほほえみ方一つさえ、二人は違っていた。そのわずかな違いさえ、彼の目には区別できたのである。
 その<わずかな違いを感知する>能力は、彼が生まれ持っていた才能ではなかった。彼は、目が見えない母親と暮らしていた。彼は、小さい頃から母親の目のかわりをしなければならなかった。そのため、どんなに小さいことにも気がつくようになったのである。彼は、そうやって自分と母親を守ってきたのであった。その能力は、後に、医者になってから、どんな小さな手がかりでも患者の病気を診断する上での判断材料にしてしまうという力となり、さらに、優秀な研究者となるのに役にたったのである。
 まだ少年だった彼には、その能力は、<相手が嘘をついていればわかる>程度にしか実感できなかった。親友のアルトゥールも、自分の嘘が見抜かれていることは、つきあい始めた頃からわかっていた。しかし、年下の彼には、アルトゥールに助言するまではできなかったのである。
 ただ、このときだけは、ルイ=フィリップは、アルトゥールに忠告しようと決めた。
 彼は、固い決意でアルトゥールの部屋に行った。が、そこにジュヌヴィエーヴがいたので、彼の決心は鈍った。ジュヌヴィエーヴに告げてはいけない、とかの女の姉妹たちは忠告した。かの女をよく知る二人が口をそろえてそう言うのだから、言ってはいけないのだろうと彼も今ではそう思っていた。しかし、アルトゥールには言っておかなければならないと思ったのである。
 ルイ=フィリップは、ジュヌヴィエーヴが幸せそうなのを見ると、複雑な気持ちがした。かの女がアルトゥールを愛しているのは間違いなかった。ただ、アルトゥールの方がどう思っているのかが、ルイ=フィリップには今ひとつわからなかった。彼の表情、しぐさを観察しても、確かな答えが出てこなかったのである。
 三人は、論文の話を始めた。どうして今勉強の話をしなければならないのかよくわからなかったが、彼らはその話題を選んだ。
 ルイ=フィリップが上の空で話しているのに気づいたジュヌヴィエーヴは、突然話題を変えた。
『・・・ところで、わたしのいとこには、もう会った、フィル?』
 ルイ=フィリップはびっくりしてかの女を見つめた。会ったことがあるともないとも返事に困った。彼は、かの女の表情から、質問の意図を探ろうとした。
『あら、どこかで見かけたのね。美人でしょ、かの女?』ジュヌヴィエーヴはほほえんだ。『・・・あら、その表情では、かなり印象的だったようね』
 ルイ=フィリップは思わず自分の動揺を顔に出してしまった。
『・・・男性は、ああいうタイプの女性が好きなのよね』ジュヌヴィエーヴはそう言いながらアルトゥールの方を見た。さすがにアルトゥールの方が一枚上手である。彼は、いつものようににやにや笑いながらルイ=フィリップを見ていた。『いったいどこがいいのか、女性にはよくわからないんだけど』
『そうだね。どこがいいのか、教えてくれないか、フィル?』アルトゥールがにやにやしながら言った。
 ルイ=フィリップは、絶句した。思わず、彼の顔に赤みが差した。
関連記事
 関連カテゴリ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
もくじ  3kaku_s_L.png データベース
もくじ  3kaku_s_L.png 設定
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
  ↑記事冒頭へ  
*Edit
  ↑記事冒頭へ