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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第12章

第212回

 5人の不思議な関係は、1894年の夏、突然変化した。
 その夏も、ジュヌヴィエーヴは、友人たちとシャンベリーにいた。
 その夏がそれまでと違っていたのは、兄のゴーティエがアレクサンドリーヌの親友のクラリス=ド=ヴェルモンの卒業祝いと称して、臨時のオーケストラを結成したことだった。日中は、屋敷中がオーケストラに振り回されていたこともあり、ジュヌヴィエーヴとアルトゥールは、比較的邪魔されずに二人きりでいられたのである。しかも、ルイ=フィリップは、途中で『ちょっと急用で』一時パリへ戻った。
 そんななか、アルトゥールは突然ジュヌヴィエーヴにプロポーズした。ふたりともまだ医師の試験に合格したばかりであるが、今結婚を申し込んでおかなければ、ふたりとも別々の病院に就職し、ばらばらになってしまうと彼はかの女を説得したのである。
 パリから戻ってきてその話を聞いたルイ=フィリップは、喜ぶと言うより複雑な思いだった。彼は、ふたりの困難な選択に、心から賛成する気にはなれなかった。今では、彼も、アルトゥールが本当に愛している女性が誰なのか、よくわかっていたからである。
 ふたりきりになったとき、ルイ=フィリップは、アルトゥールに一つだけ訊ねた。
『きみ、エミリーさんと別れる気になったんだろうね?』
 しかし、アルトゥールは肩をすくめただけであった。
 ルイ=フィリップは青ざめていた。
 二人はしばらくそうやって黙っていた。
 突然、ルイ=フィリップは、彼の襟首をつかんで叫ぶように言った。
『ヴィーヴを不幸にしたら、きみを許さない!』
 そのとき、二人の後ろで食器が割れる音がした。
 アレクサンドリーヌが、割れたコーヒーカップのそばでふるえて立っていた。
 ルイ=フィリップは、アルトゥールから手を離し、アレクサンドリーヌのほうを振り返った。そして、その場で動けなくなっていたかの女にかわって、コーヒーカップの破片を片づけ始めた。
 アレクサンドリーヌは、涙ぐんだままルイ=フィリップを見つめていた。かの女は、カップの片づけをしようとさえ思いつかないまま、その場に立っていた。
『・・・怪我はなかった、リネット?』ルイ=フィリップは、かの女にそう尋ねた。彼は、かの女に何と話しかけていいかわからなかった。
 ややあって、アレクサンドリーヌは小声で言った。『あなた、やっぱり、ヴィーヴを・・・?』
 ルイ=フィリップはうなだれた。
 それをみて、アレクサンドリーヌは、くるりと背を向けて走り去っていった。
 ルイ=フィリップは、立ち去ったかの女の方を見ていた。
 後ろで、アルトゥールが言った。
『・・・あの子は、きみに夢中だった・・・まさか、気づいていなかったんじゃないだろうね?』
 ルイ=フィリップは振り返った。その目には、涙がたまっていた。
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