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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第12章

第213回

 そのとき、ルイ=フィリップはやけになっていたといえた。自分が何を考えているのか、よくわからなくなっていたのである。自分が失恋した苦しみ、そのかの女と結婚することになったアルトゥールの態度が今ひとつはっきりしないことへの怒り、そして、今目の前から去っていった少女のこと・・・。
 アルトゥールは、暗に『かの女を追いかけろ』と言った。そうすれば、少なくても一人の少女だけは幸せになれる。しかし、ルイ=フィリップはそのことにさえ気づいていなかった。彼は、ぼんやりと立っていただけだった。
 アルトゥールは、やがて、首をすくめて部屋から出て行った。行き先がどこなのか、彼にはだいたい見当がついた。ただ、それを認めたくはなかった。
 ルイ=フィリップは、割れた食器を片づけるために台所へ向かった。その途中で、彼はジュヌヴィエーヴとすれ違った。
『フィル! 怪我をしてるじゃないの!』ジュヌヴィエーヴはびっくりして、彼の手から、割れたカップがのっていた盆を取り上げた。
 ルイ=フィリップは、真っ青な顔をしたままジュヌヴィエーヴを見つめた。
『とにかく、手当をするからいらっしゃい』かの女は、彼を台所へ案内した。
 使用人が食器の後かたづけをしているところからちょっと離れたところにあった小さな椅子に彼を座らせると、かの女は怪我の手当を始めた。
『・・・ヴィーヴ、聞いたよ。おめでとう』ルイ=フィリップが言った。
 ジュヌヴィエーヴは、さほど嬉しそうには見えなかった。かの女はちいさくため息をついた。
『・・・どうしたの? 夢が叶ったんじゃないの?』彼は不思議そうに聞いた。
 かの女は、包帯を巻く手を止め、彼の目を見つめた。
『・・・あなたは、わたしのことを好きだったと思っていたわ・・・』
 ルイ=フィリップはびっくりしてかの女を見つめた。一瞬息が止まったような気がして、彼は大きく息を吸い込んだ。
『もし、あなたが・・・』かの女はそう言うと、ちょっとほほえんだ。『・・・でも、ペグはあなたに夢中だった・・・』
 彼は混乱していた。かの女は何を言いたいのだろう?
『・・・そうよ、マルグリートは、あなたを愛していた・・・だから、わたしは・・・』かの女はつぶやいた。
 彼はますます混乱した。どういうこと? かの女は、アルトゥールが好きだったんじゃなかったの?
 かの女は、目を閉じた。ちょっと沈黙してから、かの女は意外なことを言い始めた。
『・・・もし、あなたが、わたしにプロポーズしてくれていたら、わたしはきっと<はい>と答えたはずだわ』ジュヌヴィエーヴは悲しそうに言った。『あなたはわたしを愛している、とわたしはずっとそう思っていた。あなたなら、わたしを幸せにしてくれるはずだ・・・そう考えていたのよ。でも、あなたは、そうは言ってくれなかった。しかも、ペグが、あなたに夢中になっていた・・・』
 かの女は遠い目をした。『ペグは、わたしたちの大切なお姉さまだった。かの女は、ちいさい頃からずっと病気と闘ってきた。わたしたちは、かの女の妹だったけど、いつでもかの女を守ってあげようと思っていたの。そのかの女が、あなたに恋をした。かの女は病弱だから、あなたとは結婚できないと思う。でも、わたしは、かの女の恋を応援したかったのよ・・・』
 彼は、かすれた声で言った。『でも、きみは、アルと・・・』
 かの女は首をすくめた。『そうね。そう見えたでしょうね。でも、あれは、本気じゃないわ。アルはエミリーに夢中だった。でも、エミリーには彼を手に入れることはできない。わたしは、かの女にそう教えてあげただけよ』
 そう言うと、かの女はまたため息をついた。
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