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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第12章

第223回

 このころ、クラリスは、息子のためにピアノの練習曲を書こうとしていた。
 ステファーヌは、2歳になるとピアノの前に座らされた。その教師として選ばれたのがロベール=フランショームだったのである。
 クラリスは、自分の息子に、一番最初は、ひたすら「C」音だけを弾かせた。その伴奏になる音楽、つまりロベールが弾くための楽譜をクラリスは作曲したのである。伴奏になるメロディーは、ハ長調だったり、ト長調だったり、ヘ長調だったりした。場合によっては短調の曲も作った。かの女は、わざと「C」音が主音、下属音、属音になる音楽だけを作曲した。かの女は、メランベルジェの弟子だった。自分が受けた機能和声重視の教育を、息子にもしていたのである。
 クラリスもエマニュエルも、自分たちの息子にはあまり音楽的な才能がなさそうだ、と思っていた。それでも、彼らは、息子に最高の音楽教育をさせたいと願っていた。ロベール=フランショームは、一番理想的な教師に思われたのである。
 クラリスは、息子に聞かせるためという目的のためにもピアノ曲を書き続けていた。演奏するのはもっぱらロベールの役目であった。こうして、クラリスは、ピアノ曲作曲に没頭していた。
 同じ頃、エマニュエルのオーケストラも、少しずつレヴェルアップしていた。弦楽器だけの集まりのオーケストラだったが、コンサートを開けるくらいにまで成長しつつあった。それで、エマニュエルは、この小さなオーケストラの初めてのコンサートのために、クラリスに作曲を依頼した。
 クラリスが書いた曲のうちの一つは、ピアノコンチェルトだった。ロベール=フランショームのピアノ演奏と、エマニュエルのオーケストラ(弦楽5部)のための編成のコンチェルトであった。そのほか、オーケストラだけで演奏する曲を2曲作曲してエマニュエルに渡した。
 ロベール=フランショームは、練習のために初めてシェルブールへ行った。
 彼は、エマニュエルが集めた弦楽器奏者たちが、もはや素人とは思えない演奏をしているのに驚いた。もう一つ驚いたのは、ヴィオラのトップ奏者の存在であった。
 このオーケストラでヴィオラを弾いていたのは、リーダーのエティエンヌ=マレーの妻のマドレーヌであった。マドレーヌ夫人は、エマニュエルと同じ1871年生まれで、夫と10歳以上年下であった。かの女は、平均的な女性よりは美しい方の部類に属する女性だった。が、かの女を一言で言うと、「美しいひと」というよりは、「謎めいたひと」という表現がぴったりであった。そのグリーンの目がとても神秘的に見えた。
 そのかの女は、ロベールが見るところでは、エマニュエルに恋をしているように見えたのである。
 現時点では、エマニュエルはかの女には興味がないように見えた。
 事実、このとき、エマニュエルは、ほかの女性に興味がなかった。クラリスを愛しているから、というよりは、オーケストラのことで頭がいっぱいだったからである。
 クラリスは、このオーケストラのために曲を作曲するにあたって、何度か練習を見学に行っている。
 かの女は、情熱的なグリーンの目で夫を見つめている女性の姿に気づいたが、そのことにさほど興味を持たなかった。夫を愛しているから、というよりは、嫉妬心とかそういう感情そのものに興味がなかったのである。
 逆に、エマニュエルの方は、嫉妬心で心がいっぱいになっていた。彼は、たえず、クラリスとロベールの仲を疑っていたのである。
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