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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第12章

第227回

「ロビー、そこをどいてちょうだい」クラリスが言った。「これは、わたしとマーニュの問題よ」
 ロベールは、しぶしぶ一歩下がった。
「マーニュ、あなたは、わたしとロビーが何の約束をしたと思うの?」クラリスはエマニュエルの目をのぞき込むようにしながら訊ねた。「人間の想像力の限度は、その人の体験した範囲内だと言うわ。自分にやましいことがなければ、人の行為にやましさを見いださないものだわ」
 エマニュエルは言い返した。「それじゃ、きみは、わたしが下劣な人間だと言いたいわけだね?」
「それ以外のことを言っているように聞こえましたか?」クラリスは冷たく言った。
 エマニュエルは一瞬言葉につまった。
「わたしたちが何の話をしていたかも聞こうとしないで、自分の想像に任せて何かを言うなんて、自分にやましいことがなければできないわ」クラリスが続けた。「わたしたち二人は、わたしの作品の話をしていたのよ。でも、あなたは、自分の浮気を暴露したわけね」
 エマニュエルは真っ青な顔をさらに硬直させた。
 クラリスは立ちあがった。
「・・・それを、どうやって証明できる?」エマニュエルはやっと口を開いた。
 クラリスは肩をすくめた。「証明する必要があるのかしら?」
 エマニュエルは思わずかっとした。「今問題なのは、わたしが浮気したかどうかじゃない。きみたちが今していることを何と呼ぶかだ」
 クラリスとロベールは思わず顔を見合わせた。
 ロベールは英語で言った。フランス語より英語の方が得意な彼は、自分の言葉のニュアンスを誤解されたくなかったのである。「それを、あなたがどう定義しようとあなたの問題です。あなたもよく御存知の通り、わたしは、ずっとクラリスを愛してきました。そして、現在もそうです。今更自分の気持ちを隠すつもりはないし、それは無意味なことです。ですが、クラリスは違います。かの女は、結婚以来---いいえ、あなたと結婚しようと決めて以来、ずっとあなただけを見てきました。どうしてそれをわかろうとしないのですか?」
「あなたがクラリスを愛していることに気づかないと思っているの?」エマニュエルはフランス語でロベールに言った。「そして、クラリスもずっとそうだということに・・・?」
 クラリスはエマニュエルの目をじっと見つめた。「・・・そうね、あなたの言うとおりかも知れない。わたしは、あなたを裏切っていた・・・」
 エマニュエルは、クラリスが『心の中で』という単語を口にする前にかの女の服の襟につかみかかった。ロベールは驚いて彼を後ろから羽交い締めにした。
 エマニュエルはロベールに押さえつけられながら叫んだ。「そうだ、きみたちは、裏切っていたんだ! そして、その子どもは、きみたちの子どもだったんだ!」
 ロベールの手から思わず力が抜けた。「・・・子ども・・・?」
「クラリスのおなかの子どもだ」エマニュエルが言った。そして、彼はロベールに向き直った。「あなたが、子どもの父親なんだろう?」
 ロベールはあぜんとした。
「まだ、聞いていなかったの?」エマニュエルは意地悪な表情で訊ねた。
 クラリスもぼうぜんとしていた。今度の子どもの話は、まだエマニュエルにしていない。よりにもよって、どうしてこんな展開になるのだ?
 そのとき、表から大きな悲鳴が聞こえた。ほぼ同時に複数の人間が何か叫んでいる声が聞こえてきた。
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