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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第12章

第228回

 クラリスの顔が真っ青になった。
 叫び声の中に、『ステファーヌさま!』という声を聞き取ったのである。
 エマニュエルも窓の方に目を移すと同時に、窓の方に走っていた。
「だんなさま、大変です、ぼっちゃまが・・・」乳母のベルナデットが泣きながら走ってきた。
「・・・ステフィーがどうかしたの?」クラリスも窓際に寄った。
「・・・すみません、おくさま。ちょっと目を離した間に・・・」ベルナデットはしゃくりあげた。「ぼっちゃまが、庭の池で・・・」
「池、って・・・この寒い中で・・・?」エマニュエルは乳母を問いつめた。「なぜ、池になんか・・・?」
「池が凍っているのを見に行ったんです・・・そして・・・ちょっと目を離していたら・・・ぼっちゃまが・・・氷が割れて・・・」
 クラリスは、乳母のしどろもどろの説明で、事件の概要をつかんだ。
 ステファーヌは、庭のはずれにある池に、氷が張っているかどうか見に行った。凍っていると思い、氷の上に乗った。そばに誰もいなかったので、彼が氷の上に乗るのを止める人はいなかった。ところが、氷が薄かったため、彼は池に落ちてしまったのだ。
「で、ステフィーは・・・?」エマニュエルが訊ねた。
 乳母は泣きじゃくるだけであった。
 そのとき、馬車が玄関に止まる音がした。中から医者が現われた。
 三人は、玄関に向かってかけだした。
 医者は、家の中に入らずに、ステファーヌが運ばれていた庭のベンチに向かった。
 三人がそこに到着したとき、医者は子どもに人工呼吸を行っていた。
 エマニュエルの姿を見ると、医者は立ちあがった。
「・・・すみません・・・手遅れです・・・」医者が言った。
 エマニュエルは、医者のかたを揺すった。「手遅れです、って・・・あなたは、医者でしょう? 医者なら、彼を助けられるんでしょう?」
 クラリスは、エマニュエルの肩をたたいた。「マーニュ・・・」
「手遅れって・・・」エマニュエルは、今度は息子を揺り起こそうとした。「起きて、ステフィー・・・冗談はやめて、起きなさい・・・」
「起きないわ」クラリスはエマニュエルに言った。「彼は、眠っているんじゃないわ」
 エマニュエルは、クラリスにつかみかかった。「嘘だ。こんなの、悪い冗談だ、そうだろう?」
 クラリスはうなだれた。
「冗談だと言ってくれ、クラリス!」エマニュエルはそう叫ぶと、かの女から手を離し、その場に泣き崩れた。
 クラリスは、自分の息子の亡骸の前にひざまずいた。そして、びしょぬれの彼の髪を優しくなでた。
 かの女は、涙が出てこないことを不思議に思った。悲しくはなかった。心の中に、大きな穴が開いてしまったような空虚な気分であった。
 ステファーヌ=ド=サン=メランは、わずか5年の命を、悲しい事故死で終えた。1901年12月のことであった。
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