FC2ブログ

年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第1章

第23回

 クリスティアン=ベローは、いとこのオーギュストと同じ年の生まれだった。彼は、ちいさい頃、ピアノの鍵盤をてきとうにたたいているのを母親に見つけられ、アラスにいるサミュエル=ランブールという若い音楽教師に預けられることになった。ベロー夫人とサミュエルがいとこ同士だったのである。そのとき、クリスティアンは7歳だった。彼が15歳になったとき、サミュエルは彼の両親を説得し、彼をパリに連れて行った。そして引き合わせたのが、セザール=メランベルジェであった。<1850年組>とあだ名されているメランベルジェの弟子たち(ベルナール=ルブラン、エドゥワール=ロジェ、ラウール=ペリ、オーギュスト=ベロー、クリスティアン=ベロー)のうち一番早くメランベルジェの弟子となったのは、クリスティアンであった。しかし、周知のとおり、メランベルジェはクリスティアンよりはいとこのオーギュストのほうをずっとかわいがっていた。それは、二人の才能の差、というよりは、オーギュストのおとなしく誠実なところがメランベルジェの気に入ったのであった。メランベルジェが自分の死後のことを頼んだのも、このオーギュスト=ベローであった。
 クリスティアンとオーギュストは、いとこ同士とはいえ、あまり仲がいい関係ではなかった。憎んでいる、といってもいいくらいである。
 彼らの父親同士は非常に仲が悪かった。オーギュストの父親が兄で、クリスティアンの父親が弟である。クリスティアンの父親は、兄にカレーの屋敷を追い出され、ブーローニュ=シュル=メールにやってきた。どういういきさつがあったのか、お互いに話さないが、クリスティアンの父親はオーギュストの父親を憎んでいた。クリスティアンは、幼い頃から「オーギュストにだけは負けるな」と言われ続けて育った。オーギュストは、医者になるべく勉強を続け、クリスティアンは母親のいとこのところで作曲三昧の生活を送った。が、オーギュストは医大の同級生エドゥワール=ロジェの影響で、医師にはならずメランベルジェの元に駆けつけたのである。
 それを知ったクリスティアンの父親は、「オーギュストにだけは負けるな」と言い残して死んだ。クリスティアンは、父親の最期の言葉を遺言のように守った。・・・いや、守ろうと努力した。しかし、いくら努力しても、メランベルジェの気持ちは変わらなかった。才能では、決していとこには劣っていなかったと自負していた彼の誇りが、メランベルジェの遺言状を見たときに大きくぐらついたのである。メランベルジェが後継者として選んだのは、いとこのオーギュストであった。この完敗は、彼には立ち直れないと思われるほどのショックであった。
 その彼を勇気づけたのが、フランソワーズ=ド=ラヴェルダンの言葉であった。
 彼は、故郷に戻った。そして、またペンを取った。
 彼は、もう迷わなかった。自分は、誇りを持って作曲している。作曲は、もはや、いとこのオーギュストと争う手段ではなかった。それに気づいたとき、彼は本物の作曲家になったのである。
関連記事
 関連カテゴリ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
もくじ  3kaku_s_L.png データベース
もくじ  3kaku_s_L.png 設定
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
  ↑記事冒頭へ  
*Edit
  ↑記事冒頭へ