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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第13章

第240回

 アレクサンドリーヌの出産予定日が近づくにつれて、屋敷の警戒態勢が厳しくなった。
 今度の子どもは、何があってもこの家から出さない。ルイ=フィリップはそう決心していた。最初の子どもの二の舞はごめんだ。
 クラリスとオーギュスティーヌは、この間、ふたりきりで---いや、赤ん坊と三人で---部屋で過ごした。念のため、かの女たちにもガードがついた。誘拐犯が、クラリスの子どもを間違って連れ出したりしないように、という万が一の配慮である。
 クラリスは、ユーフラジーが母のステラに似ていると確信していた。かの女には一度も会ったことがない。写真を見ただけである。そのセピア色の写真からは、かの女の髪の色も目の色もよくわからなかったが、かの女はブロンドの髪とブルーの目だった、とフィルが教えてくれた。クラリスは笑うとかの女の父親のプランス=シャロンにそっくりだが、ユーフラジーは母親のステラに似ている・・・とフィルが言った。クラリスは、一度も会ったことがない母親とこうして対面していた。
 なんて魅力的なほほえみなのだろう・・・クラリスはそう思った。この子は美人にならないかも知れないが、このほほえみだけで、きっと世の男性方を悩ませることになるだろう。
 オーギュスティーヌは、二人の枕元で、優しい子守歌を演奏していた。ユーフラジーは安心しきったようなほほえみを浮かべて眠っている。こういうのを幸せと呼ばずして、世の中の何が幸せだというのだろう?
 そのとき、屋敷内がにわかに騒がしくなったのに気がついた。赤ん坊が目を覚まして泣き出した。クラリスは子どもを抱き上げ、優しくゆすった。
 ドアがノックされた。入ってきたのは、マドレーヌ=フェランであった。
「・・・リネットの子どもが生まれました。女の子です」マドレーヌは、目に涙を浮かべながら言った。「みなさんに会いたい、と言っています」
 クラリスはほほえんだ。「ありがとう、マディ。今行くわ」
「また、妹が生まれたのね!」オーギュスティーヌの顔が輝いた。「わたしも行っていい?」
 クラリスはマドレーヌを見た。かの女はうなずいていた。
「ありがとう、マディおばさま」オーギュスティーヌが言った。
 クラリスは、マドレーヌの後を歩きながら、かの女のことを考えていた。マドレーヌ=フェランは、何を考えているのだろうか、と。クラリスもマドレーヌの境遇は知っていた。かの女の祖父の隠し子を母として持ち、使用人の娘として生まれたマドレーヌ。ルイ=フィリップとは兄妹として育ったが、正式にド=ルージュヴィル家の人間とは認められていない。ルイ=フィリップは妹として接しているが、成人した後は、かの女の方が一歩引いて、使用人同然の待遇に甘んじている。いや、自ら望んで使用人の立場になった。かの女は、誇りを持ってルイ=フィリップの秘書役に徹している。そして、オーギュスティーヌの後見役に。
 クラリスにとっても、かの女はいとこである。しかし、二人はいとこ同士というよりは、昔からの友人のようにつきあっていた。クラリスは、かの女がルイ=フィリップに恋愛感情のようなものをもっているのだろうか・・・と観察し続けたが、どう考えてもそれはなかった。二人の間には、何か別のものがあった。それを何と呼ぶのかは、恐らく本人同士もわからないだろう。それは、どう育とうが、決して恋愛には結びつかない関係であった。
 そして今、マドレーヌは、ルイ=フィリップの子どもの誕生を心から喜んでいた。
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