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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第13章

第243回

 1902年7月8日の朝、事件は起きた。
 アレクサンドリーヌは、ゆりかごの赤ん坊を見て、異変に気づいた。
 うつぶせになって寝ている子どもが身動き一つしない。
 アレクサンドリーヌは、おそるおそるゆりかごをのぞき込み、真っ青になった。かの女は、力任せに呼び鈴を鳴らし、子どもに人工呼吸処置を行った。
 あわててかけてきたルイ=フィリップは、動揺している妻と交代し、人工呼吸を続けた。
 手遅れだった。子どもは息を吹き返さなかった。
 駆けつけてきたほかの使用人を、部屋の状況が知られる前に追い返さなければならなかった。
 ルイ=フィリップは、冷静な口調でマドレーヌ=フェランを呼びに行かせた。呼び鈴を鳴らした用事はそれである、というふりをしたのである。そして、他の使用人は、何も気づかれないうちに部屋から出した。
 ルイ=フィリップは途方に暮れていた。とりあえず、子どもが死んだことは誰にも知られていない。まず、警察を呼ばなければならない。その前に、落ち着かなくては・・・。
 アレクサンドリーヌは子どもを抱きしめて泣きじゃくっていた。
 どうしてこんなことになったのだ? ルイ=フィリップは愕然としていた。
 マドレーヌ=フェランがやってきた。状況を察すると、かの女は部屋から出た。
 やがて、かの女は、子どもを抱いたクラリスを連れて再度現われた。
「おはよう、リネット、フィル」クラリスは、首をかしげて彼らを見た。「・・・何があったの・・・?」
 ルイ=フィリップが言った。「子どもが・・・シャルロットが死んだ・・・」
 クラリスは、何かの冗談だろうと思ってルイ=フィリップを見つめた。彼の目に涙がたまっていたのを見ると、かの女ははっとした。「死んだ・・・って・・・どうして・・・?」
 アレクサンドリーヌはまだ子どもを抱きしめて泣いていた。
「死因は、窒息死らしい。うつぶせに寝ていたのに気づかなかったんだ・・・」
「まあ、なんてことでしょう!」クラリスは絶句した。「警察を呼ばなくては・・・」
 アレクサンドリーヌは顔を上げた。「警察ですって? いや。誰にも渡さないわ!」
「リネット・・・」クラリスはそっと声をかけた。
「・・・わたしたちの夢が・・・」アレクサンドリーヌがそうつぶやき、もう一度子どもを抱きしめた。「・・・どうして、こんなことにならなくてはならないの?」
 クラリスはアレクサンドリーヌの肩に手を乗せた。何か慰めの言葉をかけたかったが、何も言葉が出てこなかった。
 そのとき、クラリスの腕の中で赤ん坊が声を出した。
 アレクサンドリーヌは、反射的に顔を上げた。
「・・・そうよ、子どもは、もう一人いるわ・・・」アレクサンドリーヌが言った。「ザレスキー一族の女の子が、もう一人・・・」
 クラリスが何も言わないうちに、アレクサンドリーヌが言った。
「クラリス、お願い、その子をわたしにちょうだい!」
 クラリスはびっくりしてアレクサンドリーヌを見つめた。「あなた、どうかしてるわ、リネット」
「いいえ、わたしは、どうもしていないわ」アレクサンドリーヌは必死になった。「わたしには・・・わたしたちには、その子が必要なのよ」
 クラリスはあぜんとしてアレクサンドリーヌを見つめた。
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