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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第13章

第245回

 ユーフラジー=ド=サン=メランは、ローザンヌのド=ルージュヴィル家の墓地に埋葬された。
 事情を知らない人たちは、クラリスのこの決定を意外に思ったのであるが、クラリスは<ド=ルージュヴィル家のメダイ>を持つ娘だから・・・という一言で周囲を納得させたのである。
 本当は、ルイ=フィリップの娘として、ここで眠ってもらいたい・・・というのが理由だったのであるが。
 しばらくして、クラリスは、一人で旅に出たいと言い出した。
 ルイ=フィリップは、かの女に旅行を許可した。転地療養が必要だ、と診断したのである。
 この計画は、周囲を驚かせた。一番反対したのは、ほかならぬオーギュスティーヌであった。母親のように慕っていたクラリスが、突然自分を一人にして出て行く、というのは、かの女にはどうしても納得できなかったのである。母親は、娘を一人にするものだろうか?
「・・・あなたには、妹がいるでしょ」クラリスは、オーギュスティーヌに言い聞かせた。「お願いだから、わたしのかわりに、シャルロットについていてあげてちょうだい、ミュー」
「でも、おばさまは・・・?」オーギュスティーヌが言った。
「わたしは、病気なのよ。よくなったら、必ず帰ってくるわ。そしたら、また、一緒に暮らしましょう。シャルロットを頼むわ、ミュー」
 そこまで言われれば、オーギュスティーヌも納得するしかない。かの女は、一人になってしまった妹をかわいがっていた。これからは、ユーフラジーの分もシャルロットをかわいがろう、とかの女は思っていたのである。
 クラリスは、オーギュスティーヌを隣に座らせ、ピアノを弾き出した。
 オーギュスティーヌは、その悲しい響きに胸を打たれた。
「これはね、<悲しき歌>という曲なの」クラリスは弾きながら説明した。「愛する人を失ったときに作った曲」
 二人とも泣いていた。
「あなたには、こんな別れがありませんように・・・」クラリスは、曲が終わるとかの女を抱きしめた。「愛する人は、みな、わたしのもとを去っていく。あなただけは、そうじゃありませんように・・・」
 オーギュスティーヌは、ピアノに向かって返事した。
<どうか、無事に帰ってきて!>クラリスは、そのメッセージを受け止めた。
 クラリスは、涙を拭いた。
「ミュー、あなたには、もう、別の先生が必要だわ。わたしは、あなたにちゃんとアルファベットを教えたわ。もう、完璧だわ。言葉をつづるのは、別の先生に習ってちょうだい」クラリスがオーギュスティーヌに言った。
「・・・別の先生、ですって!」オーギュスティーヌは激しく首を振った。「いや、もっとたくさんおしえて、クラリスおばさま!」
 クラリスは悲しそうにほほえんだ。「わたしの出番は、もう終わったわ」
 オーギュスティーヌは大粒の涙をこぼした。
「今度帰ってくる頃には、すてきな歓迎の曲を作って待っていてね」クラリスは優しくそう言って立ちあがった。
 オーギュスティーヌは、涙が止まらなかった。見捨てられた・・・かの女はそう思ったのである。
 しかし、そうではなかった。クラリスは、かの女の才能を見抜いていた。ちゃんとした先生につけるときが来た・・・クラリスにはそれがわかっていたのである。
 オーギュスティーヌは、自分の最初の先生のことを、一生忘れなかった。
 のちに、オーギュスト=ド=マルティーヌは、メランベルジェ校で作曲を学んだとき、師にこう言ったという。
『ぼくに一番影響を与えた教師の名前は、クラリス=ド=ヴェルモンです』
 それを聞いた彼の師、クラウス=レヴィン教授は、こう答えたと言われる。『きみもかね?・・・実は、わたしもそうなんだ』
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