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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第14章

第247回

 クラリスは思わず苦笑した。
「悪いのはマーニュだし、彼もそれをよく知っている。でもね、人間にはプライドというものがあってね---それが、人類最大の欠点だと思うんだけどね---なかなか人に謝るのが難しいのさ」ゴーティエが言った。「本当に仲直りがしたいなら、どちらかが先にプライドを捨てるべきなんだ。それは、どのくらい仲直りがしたいかという意思表示にもなる。謝ってもらいたい方も、本当に謝って欲しいと思うなら、相手が謝りやすいようにし向けるのさ。そうすると、これまで意地を張っていたように見えた相手が、心を開いてくれる」
 クラリスは黙っていた。
「人の心を本当に動かせるのは、誠意だ・・・つまり、相手に対する愛さ」ゴーティエが言った。「これは、わたしの持論だけどね」
 クラリスの目元が笑いを帯びた。
「わたしは、マーニュをよく知らないが、恐らく、彼はきみに甘えているんだと思う」ゴーティエが言った。「きみはどう思うかわからないけど、男って、基本的には甘えん坊なんだよ、クラリス」
「・・・あなたもそうなの、ゴート?」クラリスは訊ねた。
「そうだね、甘えられる相手さえいればね」ゴーティエが考え込むように言った。
「どうして、そういう相手を捜さなかったの?」クラリスは聞いた。
 ゴーティエは思わず赤くなった。彼は、どう返事していいものかためらった後、こう答えた。
「女性の方が、わたしを気に入ってくれなかったんだ」
「なぜ? 鼻が大きいわけでもないのに?」クラリスは冗談めかして言った。「あなたほどの男性だったら、どんな女性だってきっと振り向かせることができるはずよ」
 ゴーティエはため息をついた。「どんな女性だっていいというわけにはいかないよ」
 クラリスは真面目な顔で答えた。「そうね、そのとおりだわ」
「わたしも、昔、一人の女性を愛した」ゴーティエが言った。「でも、かの女は、今ではほかの男性と結婚している。そして、わたしは、一人きりなんだ」
「女性は、そのひとだけじゃないわ」クラリスが言った。
「いや、そのひと以上の女性には、まだ、お目にかかっていない」
 クラリスは思わずため息をついた。「・・・そうなの。そんなにすてきな女性だったの・・・」
 ゴーティエはクラリスを見つめた。そして、かの女が何も気づいていないようだったので、心の中で複雑な思いをしていた。気づいて欲しいのか、気づかないでいて欲しいのか、彼にはよくわからなくなっていたのである。
「世界で最高の女性だった・・・」ゴーティエがつぶやいた。「少なくても、わたしはそう思っている」
 ゴーティエは小さなため息をついた。なのに、弟はどうしてかの女を捨てたのだ?
「問題は、わたしの方じゃない。きみの方だ。いい、約束して。必ずオート=サン=ミシェルに戻るって。マーニュと仲直りする、って。もう一人子どもを産んで、三人で仲良く暮らしてくれ。結局は、それが一番いいんだ」
 クラリスはため息をついた。「子どもは、いつも、トラブルの元だった。一人目も、二人目も」
「だから、三人目が必要なんだよ。今度こそやり直すためにね」ゴーティエはそう言って笑った。
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