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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第14章

第249回

 スタニスワフスカ夫人は、さびしそうにこう言った。
「ウワデクには、この子しかいなかったんでしょうね。やっと生まれた子だったから、とてもかわいがっていたの。この子をフランク先生にみせるんだ、ってはりきってワルシャワから出てきたのよ。ナターリアは反対したそうですけど、今となっては、かの女の方が正しかったのかも知れませんわね」
「かの女には、悪いことが起こる前に、何か悪い予感を感じたのだそうです」クラリスが言った。「だから、彼に行くなって言ったんでしょうね」
 スタニスワフスカ夫人は小さくうなずいた。
 その能力は、クラリス自身にも存在していた。必ずしも毎回ではないが、かの女も、悪いことが起こりそうなとき、その前に悪い予感がすることがたびたびあった。そして、今、その予感がする。たまたま、スタニスワフスカ夫人がそれを指摘したから、そう思うだけなのだろうか? クラリスにはよくわからなかった。
 そんなことを考えながら、スタニスワフスカ夫人の後ろ姿を見送り、クラリスは後ろを振り返った。
 かの女は、自分が見ているものが信じられなかった。
 そこに立っていたのは、紛れもなくエマニュエル=サンフルーリィだったのである。
 クラリスは、とっさにその場からかけ去りたい衝動に駆られた。しかし、かの女は強い意志でその場にとどまった。かの女は、ゴーティエの言葉を思い出していたのである。
『本当に仲直りがしたいなら、どちらかが先にプライドを捨てるべきなんだ。それは、どのくらい仲直りがしたいかという意思表示にもなる。謝ってもらいたい方も、相手に本当に謝って欲しいと思うなら、相手が謝りやすいようにし向けるのさ。そうすると、これまで意地を張っていたように見えた相手が、心を開いてくれる』ゴーティエはそう言っていた。
 かの女は、彼とやり直したいと思った。だから、この場にとどまらなければならないのだ。そして、彼に謝らせるように、自分が歩み寄らなければならないのだ。ゴーティエはそう教えてくれた。
「マーニュ・・・どうして、あなたが、ここに・・・?」クラリスはやっとそう訊ねた。
 彼は、ゆっくりと口を開いた。「・・・痩せたね、クラリス・・・」
「喪服のせいかしら・・・?」クラリスは小さな声で答えた。
 彼は首を横に振った。「違う。わたしのせいだ・・・」
 そう口にすると、彼の目に涙があふれ出た。「ごめん、クラリス・・・こんなにきみを苦しめてしまった・・・」
 クラリスはうなだれた。「わたしこそ。あなたの子どもを守ってあげられなくてごめんなさい・・・」
「・・・じゃ、許してくれるの・・・?」彼はためらいがちに言った。
 クラリスは、彼に抱きついた。「謝らなくちゃならないのは、わたしのほうだわ・・・」
 エマニュエルは、かの女をしっかりと抱きしめた。「もう離さない。何があっても・・・」
「ええ・・・ずっとつかまえていてちょうだい、マーニュ・・・」クラリスは泣きながら言った。「今度こそ、一生、ずっと・・・」
 エマニュエルの手に力が入った。「約束するよ、クラリス」
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