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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第14章

第250回

 クラリスとエマニュエルは、ローザンヌに向かった。本来なら、二人はオート=サン=ミシェルに戻るべきだったのだが、12月16日のアレクサンドリーヌの誕生日を一緒に迎える約束をしていたからである。アレクサンドリーヌは、エマニュエルにとっても母親が違う妹であった。
 ルイ=フィリップとアレクサンドリーヌは、エマニュエルの姿を見て驚いた。彼らが仲直りしたという話を聞かされていなかったからである。
「お久しぶりです、フィル、リネット。そして、クラリスがお世話になりました・・・」エマニュエルが口を開くと、二人とも『そんなこと、気にしないで』というように笑った。「わたしたち、やり直す決心をしました。きみのおかげです、フィル」
 ルイ=フィリップは赤くなった。
 アレクサンドリーヌは、二人を中に案内した。
 居間からピアノの音が聞こえていた。
「・・・ミューなの・・・?」クラリスが訊ねた。
 ルイ=フィリップがうなずいた。
「あれから、誰か先生を捜した?」
 アレクサンドリーヌは首を横に振った。「かの女ったら、頑固なのよ。『クラリスおばさまが戻ってくるまでは、絶対にいや!』って・・・」
 クラリスはため息をついた。「頑固なところは、父親譲りね、絶対に」
 アレクサンドリーヌは、クラリスがかの女の両親についてふれたのを初めて聞いたような気がした。
 クラリスは、唇に指を一本あてた。「いい、静かに入ってきてね・・・」
 そう言うと、かの女は静かにオーギュスティーヌの後ろに回った。
 ピアノにクラリスの姿が映っていた。しかし、オーギュスティーヌは気づいていない。かの女は目を閉じて弾いていたのである。
 クラリスは、初めてかの女に会ったときと同じようにかの女の後ろに回り、かの女の両手の外側に自分の手を置いた。
「・・・クラリスおばさま・・・?」オーギュスティーヌは小さな声でささやいた。かの女は手を止めようとした。
「最後まで弾きましょう・・・」クラリスがささやいた。「あなたとご挨拶したいわ」
 しかし、かの女は振り返るなり、クラリスに抱きついた。「会いたかった・・・帰ってきて嬉しいわ、クラリスおばさま・・・」そう言うなり、泣きじゃくった。
 クラリスは、かの女を抱きしめてから、後ろのエマニュエルに言った。
「・・・この子が、わたしのフランショーム家の娘です」
 エマニュエルは、子どもが驚くほどロベール=フランショームに似ているのを見て動揺した。
「・・・さあ、ご挨拶して。わたしの夫エマニュエル=ド=サン=メランです」クラリスはオーギュスティーヌを立たせた。
 オーギュスティーヌは、涙を拭き、エマニュエルにほほえみかけた。そして、初めてクラリスにしたときと同じ、スカートの端をつまんで優雅なお辞儀をした。
「オーギュスティーヌ=ド=マルティーヌです」
 その古風な挨拶を見て、エマニュエルはますますそこにロベールが立っているような気になった。
「・・・やっぱり、あなたたちの目はそっくりだわ」クラリスが嬉しそうに言った。「この子の目は、母親譲りなのよ。あなたと同じすみれ色の目・・・」
 エマニュエルは、クラリスの表情を見つめ、小さくうなずいた。彼にはわかった。クラリスは、この少女の中の自分をずっと見つめていたことを。そして、この少女が、本来自分が果たすべきだった役割を負ってくれていたのだということを・・・。
 エマニュエルは、オーギュスティーヌを抱きしめた。「ありがとう。クラリスを守ってくれてありがとう・・・きみが、クラリスを幸せにしてくれたんだね・・・」
 それを聞いて、オーギュスティーヌの目に再び涙が浮かんだ。 
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