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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第14章

第252回

 1902年12月16日、アレクサンドリーヌとジュヌヴィエーヴはそろって24回目の誕生日を迎えた。
 夕方から少人数でのパーティが開かれた。参加者のほとんどが、かの女たちの友人だったので、医者や研究者の卵たちが中心のパーティとなった。この中の何人かは、来年、ミュラーユリュードの研究所に一緒に行くことになっていた。クラリスとエマニュエルは、彼らとつきあいがなかったため、共通の話題がないと思い、バックで演奏する方にまわった。クラリスはヴァイオリンを、エマニュエルがピアノを弾き、二人は、古典派の軽い音楽を演奏していた。
 アレクサンドリーヌはその日、朝からひどく頭痛がしていた。ジュヌヴィエーヴはそれを知っていたので、パーティでは二人分の役をこなそうと思っていた。かの女たちは、わざと同じ髪型にし、わざと対照的な色のドレスを選んだ。ジュヌヴィエーヴは、自分の瞳と同じ紫のドレスを、アレクサンドリーヌは赤のシンプルなドレスを選んだ。
 アレクサンドリーヌの赤のドレスは、人目についた。たとえどんなにシンプルなデザインであれ、アレクサンドリーヌが赤を選ぶのは珍しいことだった。ルイ=フィリップは、思わずかの女のそばにより、それがジュヌヴィエーヴだということに気がついた。そして、どうしてこの二人は入れ替わったのだ、と考えた。そして彼は、これがパーティの余興だと結論づけた。二人は、パーティの終わりに、「実は、わたしたち、入れ替わっていたの。気づかなかった?」と言って、みなを驚かせようと思っているのだろう、と。
 ルイ=フィリップは、気づかないふりをしようと決めた。
「リネット、きみに赤が似合うとは、今まで気づかなかったよ」ルイ=フィリップはジュヌヴィエーヴにささやいた。「でも、この色は、きみにぴったりだ。今日のきみは、とってもきれいだよ」
「・・・まあ、妻にお世辞を言うものじゃないわ」ジュヌヴィエーヴは真っ赤になった。
「本当だよ。きみは、この部屋で一番きれいな女性だ」そう言うと、ルイ=フィリップは、アレクサンドリーヌの方へ歩いていった。
 ジュヌヴィエーヴは、その後ろ姿を見つめ、ため息をついた。これまで、彼が自分たちを間違えたことはない。彼が気づかないのなら、誰も気づかないだろう。これで大丈夫かも知れない。
 ジュヌヴィエーヴはアレクサンドリーヌを連れ出した。そして、かの女を部屋で休ませ、自分だけ戻った。こうして、ジュヌヴィエーヴは、一人で二役をこなそうとしたのである。時々部屋に戻って、着替えをするのである。この入れ替えは、誰にも気づかれないはずだった。
 この場で、唯一ルイ=フィリップだけは気づいていた。彼は、ジュヌヴィエーヴが一人で二役をこなしている姿を見て、そういえばアレクサンドリーヌが朝から頭痛薬を飲んで横になっていたことを思い出した。頭痛は治ったと思っていた。まだ良くなっていなかったとは。後で、様子を見に行こう。
 ルイ=フィリップは、再びジュヌヴィエーヴに近づいた。
「頭痛は良くなったようだね、リネット」彼がささやいた。「だいぶ顔色が良くなったみたいだね」
「・・・ありがとう、もう、ずっといいのよ」ジュヌヴィエーヴも小さい声で言った。
「・・・かわいそうに、まだ頭痛が良くなっていないんだね・・・。でも、もう少しだけ我慢してね」ルイ=フィリップはジュヌヴィエーヴの額にそっとキスした。「・・・でも、熱はひいたようだね・・・」
 ジュヌヴィエーヴは、思わず真っ赤になった。
「・・・そう、それでいい。とてもきれいだよ」そう言うと、彼はかの女に背を向けた。
 ジュヌヴィエーヴは動揺していた。かの女は、とっさにテーブルの上にあったグラスを手にした。
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