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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第14章

第253回

 エマニュエルとクラリスは演奏を一時中断して、グラスの置かれたテーブルに近づいていた。
 彼は、真っ青になって立っていたジュヌヴィエーヴを見て驚いた。
「リネット、顔色が悪いですね」エマニュエルが言った。
「あら、わたし、ぐあいなんて、ちっとも・・・」そう言いながら、ジュヌヴィエーヴはよろめいた。
 エマニュエルは、かの女が倒れ込んだのを抱き起こしながら、一番近くにいたルイ=フィリップを呼び止めた。
「フィル、ちょっと・・・リネットが・・・」
 ルイ=フィリップは振り返った。ほんのちょっと前まで真っ赤になっていたジュヌヴィエーヴの顔色が、真っ青になっていた。彼は、脈を取ろうとしてかの女に近づいた。
「・・・あら、このシャンペン、へんな味がするわ・・・」クラリスがグラスから口を離した。
「何だって!」アルトゥールは、クラリスの手からグラスを奪った。彼はそのグラスを眺め、一口含んだ。「・・・これは!」
 そのとき、クラリスの体もぐらぐらし始めた。アルトゥールはかの女を支えようとしながら叫んだ。「誰か、急いで解毒薬を!」
「毒?」ルイ=フィリップがつぶやいた。
 アルトゥールは毒薬の名前を口にした。その場にいた大多数の人間が、解毒薬の存在を知っていた。彼らは、ルイ=フィリップの書斎に向かい、薬品棚から薬をもってきた。
 その場の大多数の人間が医者だったため、騒ぎは大きくなる前に収まっていた。
 アルトゥールはクラリスに解毒薬を飲ませた。
 ルイ=フィリップもジュヌヴィエーヴに対して同様の処置を行っていた。彼の手は震えていた。「リネット、返事して! 目を開けて!」彼の声もふるえていた。
 友人たちは、病院と警察の手配をしていた。
 ルイ=フィリップだけが、ジュヌヴィエーヴを抱きしめたまま動かなかった。まるでピエタの男女が逆になったようなその情景を、その場の誰もが息をのんだまま見つめていた。彼らは何も言わなかったが、アレクサンドリーヌが死んだのは確かだと誰もが認めていた。そして、その夫が黙ったまま悲しみに耐えている様子を何も言えずに見つめるだけだったのである。
 そこへ、紫のドレスを着たアレクサンドリーヌが現われた。かの女は、その場の状況がわかると、思わずルイ=フィリップの方へ駆け寄った。それを見て、クラリスに付き添っていたエマニュエルも後を追った。
「・・・リネット、聞こえるかい・・・?」ルイ=フィリップは、ほとんど口を動かさずに話していた。「ねらわれたのはきみだ。だから、きみは、このままヴィーヴでいた方がいい・・・」
 アレクサンドリーヌは思わず身震いした。「でも、そんなこと、できっこないわ・・・」
「できるよ。いや、そうしてほしい。そして、きみだけは生きていてくれ」
 アレクサンドリーヌは思わず大きな声を出した。「そんなの、いやよ!」
「ヴィーヴ、リネットは死んでしまったんだ!」ルイ=フィリップは悲痛な声で叫んだ。
 その場にいた人たちは、その声に驚いた。
「・・・信じられないのはわかるよ」エマニュエルがアレクサンドリーヌに言った。「でも、事実なんだよ」
 そう言って、エマニュエルはアレクサンドリーヌの肩を抱いた。
「・・・さよなら、リネット・・・」ルイ=フィリップがアレクサンドリーヌに言った。その言葉は、ほかの人には死んだ女性に対して言ったものに聞こえた。
 アレクサンドリーヌはその場にくずおれて泣き出した。亡くなった妹を悼んでいるんだ・・・とほかの人たちは思っていた。
 二人の行動は、まったく不自然には見えていなかったのである。彼らは、こうして別れの涙を流していた。
 そこへ、警察が駆けつけた。
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