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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第1章

第25回

 エドゥワール=ロジェが死んだというニュースを新聞で読んだ日、フランソワーズ=ド=ラヴェルダンは一人きりでいたいと思った。かの女は、ひとりきりで泣いていたかった。
 しかし、現実には、かの女を訪ねてきたクリスティアン=ベローと二人で、グラスにカルヴァドスをそそぎ、彼の思い出話をする羽目になっていた。
 何回めかの献杯のあとで、フランソワーズがふいに切り出した。
「わたし、本当はエドを愛していたんです」
 クリスティアンは、思わず吹き出しそうになった。
「いいえ、わたしたち、愛し合っていたんです」
「・・・真面目な話ですか?」クリスティアンは思わず訊ねた。
 フランソワーズはうなずいた。
 彼は、動揺を隠しきれない口調で言った。「でも、ロジェには奥さんがいたよ・・・」
「そうね。彼は、早く結婚していたから。わたしが彼にあったときには、すでにロジェには・・・」フランソワーズが言った。「でも、彼がわたしに『愛しています』と言ったのは、出会ってすぐくらいのことよ。たしか、3度目だったかしらね・・・」
「ロジェが? でも、きみたちは・・・」
「そんなに親しくなかった・・・そう見えたでしょうね」フランソワーズが言った。「どう、ネコの演技は? 主演女優賞ものでしょう?」
 彼は明らかに動揺していた。その表情は、信じられない、というより信じたくないと書かれているかのようであった。
「わたしたち、手紙のやりとりをしていたんです。ある時はノートにはさんだり、ベートーヴェンの胸像の下に置いたり・・・」
「・・・メランベルジェ家の、あの胸像の・・・?」
 フランソワーズはうなずいた。「そして、読んだらすぐに焼き捨てるという約束でした。少なくても、ロジェ夫人にだけは見せたくなかったので。わたしは、エドと別れるためにここに来ました。そのあとも、300通くらい手紙が来たかしら。返事は出さなかったけど。最後の方の手紙は、もう判読不能でしたわ」
「・・・もし、ロジェより先にロジェ夫人が死んでいたら・・・?」
「わたしがロジェ夫人になっていたかもね」フランソワーズは遠い目をした。それから、かの女は急に現実に戻ったように目の前の男性を見た。「・・・いいえ、そんな仮定は無意味だわ。エドには、そんな気はなかったかもしれない。それに、わたしも、彼のプロポーズを受ける気はなかったわ」
 彼は黙っていた。
「1892年、ここに来る直前、彼はわたしと駆け落ちしようと言ったんです。わたしは反対しました。彼があまり激しく駆け落ちを勧めるので、わたしは彼の前から消えることを選んだのです。わたしは、何があっても彼の家庭をこわしたくなかったんです。恋愛しながらそんなことを言うなんて偽善だと言われればそれまでだけど」
「フラン。どうして、今まで何も言ってくれなかったの?」
 フランソワーズは、目の前のグラスの中身を飲み干してから答えた。
「・・・あなたがわたしを愛しているということに気づいてしまったから・・・」
 クリスティアンは真っ赤になって手元のグラスの中身を飲み干した。
 ややあって、彼が告白した。「・・・そう、わたしは、いつか、きみにプロポーズするつもりだった」
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