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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第14章

第254回

 彼らは、テーブルの下から一枚の紙を拾って、ルイ=フィリップにみせた。
「<アレクサンドルを誘拐したのも、今日のパーティをねらったのも、わたしです。次は、シャルロットの番です。M.T.G.>」ルイ=フィリップは読み上げた。そして、真っ青になってその紙を警官に返した。
「・・・心当たりがあるんですね?」
「いいえ」ルイ=フィリップが答えた。そのイニシアルには、心当たりは一つしかない。しかし、かの女は、今、この場にはいない。
「・・・そうですか・・・」警官はそう言って去っていった。
 ルイ=フィリップは、ジュヌヴィエーヴとクラリスが担架で運ばれていくのを見送った。彼は、その場の全員を送り出してから病院へ向かった。
 その場には、ド=ヴェルクルーズ夫妻だけが残された。
 その晩、アレクサンドリーヌは、ジュヌヴィエーヴの部屋で荷造りをしていた。かの女は、密かに出て行こうと考えていた。ジュヌヴィエーヴがいなくなったのだと思わせるため、かの女はわざとジュヌヴィエーヴの荷物をバッグに詰めていた。
「・・・どこへ行くの、こんな時間に?」
 アルトゥールの声に、アレクサンドリーヌは振り返った。
「・・・まさか、出て行こうって言うんじゃないだろうね・・・?」その声は、奇妙にかすれていた。
アレクサンドリーヌは無言のままバッグの方を見つめた。
「今出て行ったら、殺人犯にされてしまうよ」
「犯人は、わたしじゃない」アレクサンドリーヌが言った。「誰もわたしを疑っていないはずよ」
 そして、アレクサンドリーヌは出し抜けに振り返った。「あなたは、わたしが出て行くのに賛成してくれるとばかり思っていたわ」
 アルトゥールは赤くなった。
「アル、お望み通りわたしは出て行くわ。あなただって、そのほうがいいでしょう?」
 アルトゥールはやっといつものにやにや笑いを浮かべた。「まあね。でも、きみに、子どもたちを置いていけるのかな?」
 アレクサンドリーヌは彼に背を向け、荷造りの続きを始めた。
 アルトゥールは、かの女を後ろから抱きしめた。「行かないでくれ、お願いだ」
 かの女は身をふりほどいた。「いや。やめて!」
 彼は、かの女の抗議にはかまわず、かの女を床に押し倒した。かの女は驚いて暴れた。彼の手から逃れようとしてもがいているうちに、ドレスの裾が破れた。
 彼は、そこにいるのが自分の妻ではないことに気づいた。彼は一瞬怯んだ。
「・・・きみは・・・!」アルトゥールは、思わず叫んだ。
 アレクサンドリーヌは、その間に彼の手から逃れようとした。しかし、彼の手の方が早かった。彼は、かの女をおさえつけ、耳元でささやいた。
「・・・無駄だよ、リネット。助けを呼んでも、誰も来てくれないよ。きみの夫は、今ごろ病院だ。今、この屋敷にいる人たちは、わたしが妻と一緒にいるのを見ても、誰も不審には思わない。なぜきみがこんなことをしているのか、わたしにはわからない。ただ一つだけわかっているのは・・・」アルトゥールはかすれた声で言った。「今は、きみがヴィーヴだと言うことだけだ・・・」
「だれか助けて!」アレクサンドリーヌは思わず叫び声をあげた。
 アルトゥールは、かまわずにかの女に覆い被さっていった。
「やめて、アル!」アレクサンドリーヌはすすり泣きながら叫んだ。
 アルトゥールは、かの女の叫びを自分の口でふさいだ。

 翌日、ルイ=フィリップは、アルトゥールからジュヌヴィエーヴが出て行ったことを知らされた。彼は黙ってうなずいただけだった。
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