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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第14章

第256回

 その街は、ルイ=フィリップにとっては大きな意味がある地であった。
 彼の母親は、最初の子どもを不幸な火災で亡くした(実際は、そう思いこんでいただけだったが)後、父親に連れられてこの地にやってきた。彼らの二番目の子どもであるルイ=フィリップはここで誕生し、母親が死ぬまでの間ここで暮らした。
 彼は、自分の妻を失ったとき、この地を思い出したのである。
 ミュラーユリュードに新居ができるまで、ここで暮らしたい・・・彼はそう思ったのである。
 後に彼の一番弟子と呼ばれることになる一人の少年がその家を訪ねてきたのは、1902年12月24日の夜のことであった。
 その日、リールの屋敷には、ごく少数の人間しかいなかった。というのは、ルイ=フィリップたちがここに到着してからまだ3日しか経っていなかったので、ごくわずかの使用人---もともとこの屋敷を管理する人たちとその家族---しか家にいなかったのである。門番と執事と料理人、というのがこのときの使用人のすべてであった。
 少年は、たまたま誰もいない門から中に入り、玄関のベルを鳴らした。しかし、応答がなかったのでドアを開けてみた。不用心にも、その玄関ドアは簡単に開いた。
 家の中からは、ピアノの音が聞こえていた。オーギュスティーヌがクリスマスにちなんだ音楽を自分でアレンジして演奏していた。家の人たちは、ほぼ全員、オーギュスティーヌのピアノ演奏に夢中になっていたのである。執事も含めて、家の中にいたほぼ全員が。
 少年は、ピアノの音がする方へ向かった。
 その途中で、彼は部屋から出てくる一人の青年に会った。ブロンドの髪。驚くほど青い澄んだ目・・・。少年は、思わず息をのんだ。目の前の男性が、ザレスキー一族であることに気がついたからである。
「・・・あの・・・ここは、ドクトゥール=ド=ラ=ブリュショルリーのお宅・・・ですよね?」少年が彼に尋ねた。
「いかにも」青年---ルイ=フィリップは、少年を見つめて答えた。
 その答えを聞くと、少年は嬉しそうにほほえんだ。「・・・よかった・・・」
 ルイ=フィリップは、目の前の少年のほほえみを見て驚いた。若い頃のアルトゥール=ド=ヴェルクルーズがここに立っているかのような錯覚にとらわれたのである。この赤毛の少年は、間違いなくフランショーム一族だ、彼はそう確信した。
「ドクトゥールは、どちらにいらっしゃいますか?」少年は真剣なまなざしになった。
「こんな時間に、何の用なの?」ルイ=フィリップが訊ねかえした。
 少年は『取り次いでくれないの?』という表情になった。
「そもそも、あなたは誰?」ルイ=フィリップが続けた。「なぜここにいるの?」
 少年は答えた。「ぼくの名前は、アンブロワーズ=ダルベールです。ドクトゥールに会いに、オーベルニュから来ました。どうしても弟子にしてもらいたいんです。どうか、取り次いでいただけませんか?」
 ルイ=フィリップは首をかしげた。「弟子にって・・・あなたは、まだ高校生でしょう?」
 少年は、髪の毛と同じくらい赤くなった。
「あなたは、未成年です。ご両親には、ちゃんと話して出てきたんでしょうね?」
 少年は思わず下を向いた。
 ルイ=フィリップは、少年の正直な反応を見て、ついほほえみを浮かべてしまった。この少年は、家出同様にしてここまで出てきたのだ。でも、どうして?
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