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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第14章

第257回

 やがて、アンブロワーズは顔を上げた。彼は、真剣な顔をしていた。そして、『お願いです、取り次いで下さい』と言おうとしてルイ=フィリップの方を向いた。彼は、ルイ=フィリップの優しい目を見て、言葉を失った。その目は、すべてを受け入れる覚悟ができている強い人間だけが持つ本当の優しさに満ちていた。彼は、黙ったままその目を見つめていた。なぜか、彼は幸せな気分に満たされていた。
「・・・困った子だね、きみは・・・」ルイ=フィリップは小さなため息をついた。「帰らないつもりなんだね?」
 アンブロワーズはうなずいた。
「きみは、いくつになるの?」
「15歳です」アンブロワーズが答えた。
 ルイ=フィリップはもう一度ため息をついた。「ほんとうにわたしの弟子になりたかったら、せめて高校を卒業してからもう一度おいで。きみは、未成年だ。何かを決めるにも、ご両親の同意が必要だ」
「両親は、もう、いません」アンブロワーズが答えた。「今、叔父夫婦と一緒に住んでいます。あそこに戻るつもりはありません」
 そう言うと、アンブロワーズは、突然息をのんだ。「わたしの弟子、って・・・まさか、あなたが・・・!」
 ルイ=フィリップは、ほほえみながらうなずいた。「わたしが、ルイ=アントワーヌ=ド=ラ=ブリュショルリーです」
 アンブロワーズは、思わず絶句した。彼は、目の前のザレスキー家の青年が、自分が探し求めているその人物だと、やっと気づいたのである。そして、その人物がこんなに若いことに驚いた。
 ルイ=アントワーヌ=ド=ラ=ブリュショルリー。それは、彼がローザンヌ大学時代から使っていた名前であった。彼は、その名前で論文を発表し、博士号を取っていたのである。その名前は、彼の曾祖父の妹ルイーズ=アントワネット=ド=ラ=ブリュショルリー---彼の父プランス=シャロンが<トニー大叔母様>と呼んでいた母親代わりの女性の名に由来する名前であった。現在、その姓を名乗っている人間が親戚にはいないので、誰の迷惑にもならないと思って付けた名であった。
 そして、ルイ=フィリップは、アンブロワーズにその名を名乗って以来、自分の本名を捨てた。
 これからは、この名前を名乗って生きて行かなければならない。シャルロットを守るために。彼はそう決意したのである。そして、娘も<ユーフラジー>と名乗らせようと思った。
 ルイ=フィリップは、アンブロワーズを連れてサロンに戻った。そして、彼らはいっしょにクリスマスの音楽を聞いたのである。
 ルイ=フィリップは、彼に、一緒にクリスマス休暇を過ごす許可を与えただけのつもりだった。
 しかし、アンブロワーズの決心は固かった。彼は、叔父夫妻に長い手紙を書いた。彼の現在の居所、これからの目標について。もし、彼の計画に不満なら、いつでも連れ戻しにくるように・・・と書いたその手紙には、ついに返事は来なかったのである。叔父夫婦も、アンブロワーズの頑固な性格は良くわかっていた。反対しても無駄だということも。
 ルイ=フィリップの考えに反し、アンブロワーズ=ダルベールは、二度とオーベルニュに戻ることはなかったのである、生きている間も、死んだ後も・・・。
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