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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第1章

第26回

 フランソワーズは、クリスティアンのグラスに酒を注いだ。
「でも、わたしは、一人で生きる決意をしています。92年にここに来たときからそのつもりでした。38のマドモワゼルが42のマドモワゼルになっただけの話です。そのうちに、50のマドモワゼルになるでしょう」
「わたしがどんなにきみを愛したとしても、50のマドモワゼルになるつもりなの?」
「ええ。わたしには、もう恋愛は必要ないわ。わたしはね、一生に一度しか体験できないような恋愛を経験したのよ。彼以上の男性は、一人もいなかった・・・」かの女はそう言うと、ちょっと声を落とした。「・・・エドを含めて、ね・・・」
「フラン・・・」
「わたしには、もう孫がいるのよ、クリスティアン」
 クリスティアンはフランソワーズのグラスにカルヴァドスをそそぎ、かの女が飲み干すのを見つめながら言った。「でも、もう一度恋をしてはいけないってことにはならない。わたしには、その男性を忘れさせることができないかしら?」
 フランソワーズは、ふっとため息をついた。「あなたって変わった人ね、クリスティアン」
「いつも結婚できない相手とばかり恋に落ちるような女性を愛してしまうところが、かい?」
 フランソワーズは、くすくす笑った。「ええ、そうね」
「きみに初めてあったのは、75年だったかな。もう20年になる。あの頃はメランベルジェがいた。今はエドゥワール=ロジェもいない」クリスティアンはそういうと、自分のグラスに酒をついだ。
「・・・これ以上飲むと、あなたは正体をなくしてしまうわ」
「今日は、酔いたい気分でね」
「わたしは、泣きたいのよ」
「じゃ、泣いた方がいい。そして、思い切り泣いたら、今度はわたしを愛して下さい」
「・・・このうえ、もう一つ失恋の思い出を持てというの?」
 彼は真面目な顔になった。「少なくても、わたしは独身だ。きみがわたしの申し込みを受けるなら、きみはすぐにでもベロー夫人になれる」
 フランソワーズは思わず苦笑した。「わたしは、恋をするには年取りすぎたって言ってるでしょ、クリスティアン?」
「わたしは、あきらめないよ」
 しかし、フランソワーズは、彼を含めて誰の結婚申し込みも受けないまま一生を終えることになる。フランソワーズは、誰かの妻というよりは、母親であった。かの女は一生結婚しなかったが、息子と孫を持った。しかし、かの女を母親ないし祖母と慕う多くの弟子たちに囲まれ、自分の子どもとして生み出した作品に囲まれ、かの女は充実した生涯を送ったのであった。
 フランソワーズ=ド=ラヴェルダンもクリスティアン=ベローも、ネコとしての誇りある人生を送った幸せな作曲家であった。ちなみに、クリスティアン=ベローも一生独身を貫いたのであった。二人の間に恋愛関係が成立することはなかった。
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