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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第14章

第266回

 シャルロットは、一人になると、コンソナンス通りを北西に向かう計画を立て直そうとした。しかし、一人ではどうしようもないという結論を出さざるを得なかった。自分の不在を誰にも気づかれてはいけないし、第一、どうやってあんな遠いところに行けるというのだ?
 翌日は、シャルロットの2歳の誕生日であった。朝から快晴のいいお天気であった。
 シャルロットは、食事の後でオーギュスティーヌに誘われてかの女の部屋に行った。
 オーギュスティーヌは、かの女に何か悩みがあるのに気づいた。
「・・・あなた、<恐い家>に行きたいんじゃないの?」
 シャルロットは黙ってうなずいた。
「そんなこと、ちっとも難しくないわ」オーギュスティーヌはいたずらっぽく笑った。「あなたは、小さいんだから、馬車の中に隠れることは簡単でしょう? いい、ムッシュー=フランショームが来たら、あなたは、彼に挨拶しないで裏口から外に出て、馬車に乗るのよ。誰にも見つからないようにね」
 シャルロットが驚いていると、かの女は続けた。「いい、馬車は、玄関に横付けになるわ。ムッシュー=フランショームが降りた瞬間がチャンスよ。みんな、彼の方を見るわ。そのとき、あなたは、反対側のドアから入って、椅子の下に隠れるの。そして、何があっても、彼らに見つかってはだめ。馬車が止まって、彼らが降りるまでは、絶対に声を出してはいけないわ。わかった?」
 オーギュスティーヌはうれしそうだった。シャルロットは逆に不安そうにかの女を見つめたきり、何も言えずにいた。
「ああ、なんだかとってもわくわくするわ!」オーギュスティーヌは興奮しながら言った。「そしてね、わたしは、あなたとずっと部屋に閉じこもったふりをするのよ。大丈夫、きっとうまくいくわ。いいえ、わたしがそうしてみせる!」
 シャルロットは、オーギュスティーヌの自信たっぷりな表情を見つめ、黙ったままうなずいた。
「どう、今年の誕生日のプレゼントは?」オーギュスティーヌは、そっとウィンクした。
「・・・最高よ、ミュー」シャルロットは思わず涙ぐんだ。
「まったく、あなたは泣き虫ね、ロッティ?」オーギュスティーヌはかの女を抱きしめ、優しく揺すった。「さあ、準備して。クラリスおばさまに、変な姿を見せるわけにはいかないわ」
 シャルロットは、かの女に尋ねた。「クラリスおばさまを御存知なの?」
 オーギュスティーヌは懐かしそうな顔をしてうなずいた。「ええ。本当は、わたしも一緒に行きたい・・・」
 オーギュスティーヌは懐かしさで胸がいっぱいになった。泣き出したかったが、シャルロットの前で涙を見せたくなかった。かの女はほほえみを浮かべた。「かの女は、優しいひとよ・・・とっても・・・」
 かの女は、それ以上何も言わなかった。
 シャルロットは、オーギュスティーヌに着替えを手伝ってもらい、二人で庭に降りた。
 玄関の横の茂みに隠れ、かの女たちは、馬車が来るのを待った。
 馬車が止まり、執事のマクシミリアン=シュミットが馬車に近づいた。
「・・・チャンスよ、ロッティ」オーギュスティーヌは御者さえロベール=フランショームに注意しているその瞬間を待って、馬車のドアを開けた。
 シャルロットは、馬車に乗り、うまく椅子の隙間に体を入れた。
「・・・がんばってね」オーギュスティーヌは口の動きだけでそれを伝えると、馬車のドアを閉めた。
 オーギュスティーヌは、誰にも見つからないように部屋に戻った。
 かの女は、自分の部屋の窓から馬車が出発するのを見送った。
「・・・がんばってね・・・」かの女はそうつぶやいた。
 本当は、誰よりも自分がそこに行きたかった。オーギュスティーヌは、ひとりきりで馬車を見送り、思い切り泣いた。
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