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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第16章

第288回

 コンサートが終了した晩、クラリスの友人たちは、コンサートの打ち上げパーティのかわりに、かの女の部屋に集まって静かに語り合うことを選んだ。何と言っても、この晩は、クラリスの最初の命日だったのである。
 ロベール=フランショームは、全員に飲み物が行き渡った時点で、いきなりこう言いだした。
「みなさん御存知の通り、クラリスは、生涯に膨大な作品を残しました。そして、そのほとんどを自分の手で破棄しました。わたしは、その現場に遭遇し、せめてピアノ曲だけでも残して欲しいと頼みました」
 エマニュエルは下を向いた。彼は、偶然その現場に出くわし、クラリスとロベールの仲を疑ったのである。そして、その直後から思い出したくないできごとが続いた。
 ロベールもその一連のできごとを知っていた。しかし、彼は続けた。「クラリスは、ピアノ曲の一部だけは残すことを承知しました。そして、かの女は、自分で、残すものとそうでないものを一つずつ選びました。最後には、エマニュエルの手を借りて、かの女は自分の最後の仕事を果たしました・・・」
「・・・で、あなたは何を言おうとしているの?」ヴァーク=ブーランジェがみなを代表して訊ねた。
「残されたピアノ曲は、クラリスの・・・いいえ、みんなの財産です」ロベールはフランス語で言葉を選びながらしゃべるのをやめ、得意の英語に切り替えた。「わたしは、その財産を、より広くみなに知ってもらいたい。だから、クラリスの作品だけで行うピアノコンクールを開催してみてはどうだろう?」
 全員、あっけにとられたようにロベールを見つめた。
「わたしは、賛成だな」フランク氏は即座に賛成した。「若いピアニストを育てることにもなるし、クラリスの作品を残していくことにもなる」
「しかし、資金はどうするの?」ヴァーク=ブーランジェが訊ねた。
「わたしは、自分の資産を全部出してもいいと思っている」ロベールが言った。
「わたしは、それには反対だ」エマニュエルが即座に言った。「これは、クラリスときみの問題じゃないんだよ」
「もちろん、クラリスとわたしの問題じゃない」ロベールは反論を試みた。「わたしには、責任がある家族がいない。わたしが死んだ後、相続人がいない。だから、わたしは自分の意思で自分のお金が使えるし、死後は、全額この財団に---おそらく、財団という形でコンクールを運営することになると思う---遺産を寄付するつもりだ。わたしは、きみに反対されても、この考えを変えるつもりはない」
「しかし、きみに援助を頼むつもりはない」エマニュエルが言い返した。
「エマニュエル、もしコンクールをするとして、賞金をもらう側は、誰がお金を出したかなんて気にしてはいないよ」フランク氏は穏やかに言った。「財団、と言っていたが、確かにそれはいい考えだ。財団をつくって、寄付を集めてコンクールをするんだよ。寄付となれば、誰のお金かなんてどうでもいい問題じゃないかな」
「マーニュ、きみは、ロビンからお金をもらいたくないだけだ」ヴァークが言い切った。彼は単刀直入にエマニュエルに忠告できる数少ない友人であった。「そんなことにこだわっているときじゃないと思わないの? 誰のためのコンクールか、考えてごらん」
「・・・わかったよ、ヴァーク。考えさせてくれないか」エマニュエルが言った。
「ここにいるのは、みな、クラリスの友人なんだよ」ロベールがそう言ってほほえんだ。
 数日後、クラリスの友人たちからの寄付が大量に集まった。彼らのプランは、形あるものへと進みつつあった。
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