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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第2章

第28回

 1892年10月。 
 クラリス=ド=ヴェルモンがヴィルフォール音楽院に入学してから4回目の秋がやってきた。
 同期に入学した女子学生は、クラリスを入れて4人しか残っていなかった。残り3人はピアノ上級コースに進学、クラリスだけは作曲コースに進んでいた。クラリスとリディア=ロランが同じ1875年生まれ、ナターリア=スクロヴァチェフスカとアレクサンドリーヌ=ド=ティエ=ゴーロワが1878年生まれであった。寮の部屋割りは、同じ年生まれ同士であった。しかし、4人は入学以来、結束が固い友情を結んでいた。
 リディア=ロランは南フランスの出身であったが、入学以来一度も家に戻っていなかった。(戻らないのはクラリスも同様であったが。)本人曰く、「ピアニストになると言うなら、家に帰ってくるな」と勘当されたのだという。それが事実であるかどうかは誰も知らないが、家から手紙すら届いたことがないのは確かである。
 ナターリア=スクロヴァチェフスカの場合も、ちょっと複雑な家庭環境である。かの女はポーランドからの亡命者である。父親が反政府活動で逮捕されて、母親、兄姉とともにフランスに移り住んだのである。フランスには、祖母と叔母が住んでいたからである。しかし、8歳の時母親を失い、兄と姉はアメリカに移ることに決めた。そのとき、兄姉はナターリアにはヨーロッパに残ることを勧めたのである。なぜならば、かの女には音楽の才能があったからである。ピアノ教師だった祖母の元に妹を残し、兄と姉は移住していった。『音楽家になったら、アメリカにいらっしゃい。もし、そうなれなかったら、いつでもわたしたちを頼ってきなさい』二人はそう言い残してフランスを去っていった。祖母は、ナターリアをヴィルフォール音楽院に入学させることにした。そこでいい成績を残して、パリ音楽院に進学しなさい・・・というわけである。逆に言えば、そこで立派な成績を残せないくらいなら音楽家としては成功できないだろう、ということでもある。かの女の祖母は、音楽教師だけあって、現実的な考え方の持ち主であった。
 アレクサンドリーヌ=ド=ティエ=ゴーロワは、フランスの貴族出身のお嬢様である。かの女もナターリア同様、兄姉の一番下である。両親は既になく、一番上の兄ゴーティエが家を継ぎ、牧場と農園の主となっている。かの女の家も、ある意味では複雑な家庭環境である。かの女の父親は、かの女の母親と結婚する前に一度結婚している。兄のゴーティエは前妻の子どもである。実は、前妻にはもう一人男の子がいたのだが、その子どもが生まれたときに母親を亡くしたことから、前妻の両親が引き取って育てているという。アレクサンドリーヌは、その兄とは会ったことがない。後妻の子どもとして誕生した3人の娘たちのうち、双子の女の子の一人がアレクサンドリーヌである。かの女が生まれてから5年後に母親、8歳の時に父親が亡くなったことから、兄が妹たちの両親代わりになったのであった。双子と言っても、姿はそっくりな一卵性双生児なのに、アレクサンドリーヌは音楽が好きで、ジュヌヴィエーヴは数学は好きだが音楽嫌い・・・であった。アレクサンドリーヌは音楽院に入学し、ジュヌヴィエーヴは医学部にはいるために受験勉強をしていたのであった。
 ゴーティエ=ド=ティエ=ゴーロワは、独身であったが、こまやかな神経の持ち主で、妹の友人たちを夏休みのたびに招待し、かの女たちは家庭的な雰囲気のなか、休みを過ごしてきたのであった。
 3度目の夏休みを終え、4人はスイスに戻ってきた。
 クラリスは、部屋の窓からレマン湖を見つめ、故郷に戻ってきたようななつかしさを覚えた。
 また「赤ペンとの戦い」が始まろうとしていた。
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