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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第17章

第302回

 クラリス=ド=ヴェルモン=ピアノ=コンクールの準備は、ほとんど最終段階に入っていた。
 実行委員長は、クラリスの兄のアレクサンドル=ド=ルージュヴィル=ド=サックス。
 審査員は、クラリスの肉親と友人たちで占められた。まず夫で指揮者のエマニュエル=サンフルーリィ。作曲家のフランソワーズ=ド=ラヴェルダン。ピアニストのマリア=ピアニーナ=ザレスカ。友人として名を連ねたのは、ピアニストのロベール=フランショーム、リリー=ブーランジェ、そして音楽学者のリディア=ロラン。クラリスのピアノの師ドニ=ルイ=ギラン元教授と、ロベールのピアノの師アレクサンドル=クールゾン教授。音楽評論家では、グルノーブル=ジュネス=ピアノ=コンクールの審査員長でもあるアレクサンドル=ピサン、フランソワーズの古くからの友人エルネスト=マンソン。この10人の審査員のうち、誰を審査員長にするのかは、まだ決めていなかった。ただ、エマニュエルは辞退していたが。
 指揮者のヴァーク=ブーランジェは、自分のオーケストラであるグルノーブル市民オーケストラ(コンサート=マスター・テオドール=フランク)と一緒に参加を決めていた。本選の課題曲はコンチェルトになる予定だった。
 日程は、1907年2月5日から3月5日まで。応募締め切りはすでに終了し、55人の応募者があった。ユーフラジー=ド=ラ=ブリュショルリーも応募していた。クラリスの友人たちが、研究所を次々と訪れ、ドクトゥールも最後には断れない状況になっていたのである。


 コンクールの予選は、完全に閉鎖空間で行われた。
 応募者たちは、<コリーヌ=コンソナンス>内に閉じこめられ、外部との接触は一切行われなかった。それどころか、参加者はお互いに会うことも許されなかった。
 予選は非公開で、審査員たちはステージの様子が一切見えない場所での審査をしなければならなかった。応募者はすべて番号で呼ばれ、その番号は、予選ごとに変わったので、審査員たちにも応募者が誰であるのか一切知らされなかったのである。その集計を担当したのは、サント=ヴェロニック校の音楽担当の教官たちで、その彼らにさえ応募者の名前はあかされなかったのであった。
 ただ、参加者たちは、全く顔を合わせないと言うわけには行かなかった。予選の控え室や、食事の時など、顔を合わせてしまう場面は結構存在したのである。ただし、声をかけることは禁じられていた。
 第三次予選の前日、シャルロットは、何人かの参加者たちと黙って夕食を食べた後、自室でピアノの練習をしようと思っていた。
 かの女はピアノの前に座り、<ブリュメール=クーデター>を弾き始めた。
 いきなりドアが開き、人の声がした。
「・・・きみは誰? どうしてここにいるの?」声変わりしたばかりの男の子の声だった。
 そして、彼は、部屋を間違えたことに気づいた。
「・・・ごめんなさい、ここ、ぼくの部屋じゃなかったんですね。でも、きみはピアノが上手だね。どこでピアノを習ったの?」
 シャルロットはピアノを弾くのをやめなかった。かの女は背中でその声を聞いたのだが、振り返ることさえしなかった。
「わたしは、ピアノを習ったことなんてありません」シャルロットはいらいらし始めていた。とにかく、この侵入者を追い出したかったので、適当に返事した。
「でも、きみは、それだけピアノが弾けるじゃないか。ここには、ピアノが上手な人だけが集まったはずだよね?」
「ピアニストらしくなくてごめんなさいね」シャルロットはむっとした。かの女はピアノを弾く手を止め、振り返った。
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