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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第17章

第305回

 コンクールが終了した直後、シャルロットにコンサートの依頼が来た。クラリス=ド=ヴェルモン=コンクールの審査員長だったアレクサンドル=クールゾン(ロベール=フランショームのピアノの師)が、娘のドリーのフランスでのデビュー=リサイタルの時、1曲でいいから<友情出演>して欲しい、と言ってきたのである。エマニュエル=サンフルーリィに頭を下げられると、ドクトゥールは断わる理由を探すことはできなかった。シャルロットは、1曲だけ、という条件で、コンサートを引き受けざるを得なかったのである。
 コンクールが終わって約1週間後のことだった。
 その日、ピアノの前にいたのはコルネリウスだった。彼は、ロベール=フランショームがやってくるのを待っていた。
 シャルロットは、コルネリウスが練習している曲の題名を知らなかった。
「あら、練習曲?」シャルロットが訊ねた。
「いや、ショパンの<タランテラ>だ」コルネリウスは弾きながら答えた。「もうじき、ムッシュー=フランショームが来る」
「じゃ、わたしは、出て行くわね」
 しかし、ほんの少し遅かった。かの女がドアを開けたとき、ロベール=フランショームがドアを開けようとして手を出したところだった。彼はその手を引っ込めた。二人はドアのところで短い挨拶を交わした。そして、挨拶がすむと、シャルロットはさっさと行ってしまった。
「わたしは、相変わらずかの女に嫌われているようだな」ロベールは首をかしげた。「なぜだろうね?」
 ドアは開いたままだった。ロベールはドアを閉めようとして、シャルロットがそこに倒れていることに気づいた。
「ユーフラジー!」ロベールが叫んだ。
 コルネリウスはとっさに立ちあがり、部屋から飛び出した。
 ロベールの叫び声を聞いたマクシミリアン=シュミットが自室から飛び出してきた。彼は、ロベールに抱きかかえられているシャルロットの姿を見るなり、研究所の方へ駆けだしていた。
 ロベールは、ソファにシャルロットを横たえた。そこへ、クリストファー=テニスンが現われた。
 テニスンはシャルロットを診るためにかがみ込んだ。そこへ、ドクトゥール=ド=ラ=ブリュショルリーが駆けつけた。
「・・・ドクトゥール、この熱では、おそらくインフルエンザでしょう・・・」テニスンは、顔だけ上げてそう言った。
「ロッティもか!」ドクトゥールはつぶやいた。その声は、すべての感情を含んでいた。
「インフルエンザですって?」ロベールが訊ねた。
「ええ、今、この町の子どもたちの間で流行している重い風邪です。イギリスから来たらしいです。この屋敷でも、7歳以下の子どものほとんどが風邪をひいています」ドクトゥール=テニスンが、ロベールに英語で説明した。二人は、フランス語より英語の方が得意なのだった。「大人で風邪をひいているのはごく少数で、しかも、軽いものです。でも、子どもたちは、みな高い熱で苦しんでいます。町では、すでに死者が出ているそうです」
「で、かの女はどうなの?」ロベールが青くなって訊ねた。「まさか、死んだりはしないだろうね?」
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