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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第16章

第291回

 1906年の入学試験は、6月14日に始まった。
 第一次試験は筆記試験だった。この学校のユニークなところは、筆記試験、演奏試験の上位20名は必ず合格できることだった。そして、こののべ40名以外の受験生は、二度の試験の総合点で合格が決まることになっていた。
 筆記試験が終わって一週間後、第一次試験の上位20名が発表になった。その名簿を見て、研究所の人たちが喜んだのは言うまでもないことであった。なぜなら、その名簿の一番上に<ユーフラジー=ド=ラ=ブリュショルリー>の名があったからであった。
 ドクトゥールだけは、掲示板の前を離れなかった。彼は、二番目に書かれた名前を見ていたのである。
<第2位:ヴィトールド=ザレスキー>
 ドクトゥールは、その少年が結果を見に来ているだろうか、と思った。
 ザレスキー家の第12代当主となるはずの少年が、どうしてこんなところにいるのだろう?とドクトゥールは思った。第11代当主ヴォイチェフ=ザレスキーとその妻ルドヴィーカはすでにこの世になく、少年は母方の祖父アファナーシイ=ザレスキーに育てられていると聞いていたのだが?
 ザレスキー家第8代当主マリアーン=ザレスキーには、息子が二人いた。上の息子が第9代当主のカジーミェシュである。(ちなみに、下の息子がマリア=ピアニーナ=ザレスカの夫となった---言わずと知れたドクトゥールの母方の祖父である。)そのカジーミェシュにはやはり二人の息子がいた。兄のタデウシが第10代目当主となり、弟のアファナーシイが補佐を務めた。この二人は、とても仲がいい兄弟だった。タデウシには息子が一人、アファナーシイには娘が一人いた。その二人がヴィトールドの両親である。ヴィトールドの両親の結婚にも問題があった。アファナーシイが、娘を無理矢理ヴォイチェフと結婚させたらしいことは、当時ザレスキー一族でもかなり知られた事実であった。どういういきさつかは想像するしかないのだが、アファナーシイが頑固な人間であるという評判は、ザレスキー家の人間で知らぬものはない。おそらく、祖父と孫の中で何かがあって、孫は祖父から離れてフランスの留学先を探したに違いない。それにしても、どうして、こんなところに? ミュラーユリュードというのは、妙な留学先である。
 ドクトゥールは、辺りを見回した。
 そのとき、彼の目に入ったのは、ロベール=フランショームとその連れの少年だった。彼の兄エクトールの双子の息子のどちらかだ。確かオスカールとフランソワという名前だったはずだ。フランショーム一族、特にその長男はイギリスの教育を受けることが多いので、ここに来たのは下の息子のフランソワだろう、と彼は思った。
 ドクトゥールは、フランソワを見ているうちに、少年の頃のアルトゥール=ド=ヴェルクルーズを思い出していた。彼らも同級生だった。彼らが初めて会ったのは、自習室でのことだった。その時彼は、飛び級で年上の青年たちに囲まれていた。そして、アルトゥールは、そのクラスのリーダーだった。
『きみが、ルイ=フィリップ=ド=ルージュヴィル? ぼくは、アルトゥール=ド=ヴェルクルーズ。ジョルジェット=フランショームの最低の息子さ』夢中で本を読んでいた彼は、びっくりして顔を上げた。目の前に立っていたアルトゥールは、皮肉っぽく笑いかけていた。『きみは、ザレスキー一族だろう? 一目でわかったよ。しかも、きみは、どうやら音楽が苦手らしい。違うかい?』
『違わないよ』彼は顔をしかめた。
『じゃ、ぼくたちは、仲間だというわけだ』アルトゥールは、握手を求めるように手を差し出した。『お互い、できそこないどうし、仲良くしようよ』
 彼は、その手をしっかりと握りしめた。そのとき、彼は11歳、アルトゥールは14歳だった・・・。
 彼は、ヴィトールドとフランソワが同級生になることを想像した。彼らは、いったいどんな友人になるのだろうか? 自分たちは、本当の意味での親友ではなかった。二人の間には、あまりにも、いろいろあった。ありすぎるほどだ。
 ドクトゥールは思わず首を振った。思い出したくもないことを思い出してしまいそうだったからである。
 第一、あの二人も自分たちのようになってしまうとは限らないではないか。いや、彼らには、本当の友人になってほしいものだ。
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