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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第17章

第318回

「お呼びですか?」ルネ=フェリーが訊ねた。
「ああ。実はね、車を運転してもらいたいんだ。ブーローニュ=シュル=メールまで。・・・こんなに長距離では、きみ以外に頼める人がいなくてね・・・」
「お任せ下さい」フェリーは自信たっぷりに返事した。
「用事は、それだけなんだけど・・・」ドクトゥールが言った。「ただ、気になることがあってね。これなんだ」
 ドクトゥールは机の中から、一通の手紙を取りだした。そして、それをフェリーに手渡した。
 彼は読み始めた。「『ミュラーユリュードから出るな。殺されるぞ』---なんですか、これは?」
「脅迫状・・・。わたしたちは、命を狙われているんだ」
 フェリーはあっけにとられたようにドクトゥールを見た。
 そのとき、シャルロットが、半開きのドアから顔を出した。
「何か用かい? 今、話し中なんだけど」ドクトゥールは、不機嫌そうに言った。
 シャルロットはちょっと考えてから言った。「ペール=トニィ、さっきは、ドンニィにああいったけど・・・」
「彼を連れて行きたいのかね? 車は二人乗りなんだよ」
「違うの。あのね・・・わたし、何か変なの。心の中で声が聞こえるの。『シュリー、行っちゃだめだよ。危ないよ』って。ね、変でしょう?」
 二人とも青くなった。
 フェリーは、脅迫状のことを思った。ドクトゥールの方は、アンブロワーズの不思議な言葉を考えていた。
「・・・それでも、行ってくれるかい?」ドクトゥールはフェリーに訊ねた。
 彼はうなずいた。「ええ。これが、わたしの仕事です」
 ドクトゥールはため息をついた。「いやなら、無理にとは言わないよ。わたしが運転してもいいんだから・・・」
「いいえ、わたしが運転します」
 マクシミリアン=シュミットは、この会話を部屋の隅で聞いていた。彼は、後に、警察に《ドクトゥールは自分で運転することを提案しました。でも、フェリーはみずから『いいえ、わたしが運転します』と言ったのです。彼は、自分の意思で車に乗りました》と証言している。
 1912年7月12日、3人は、研究所の全員に見送られて危険な---といっても、危険だと知っていた人はごくわずかではあったが---ドライブに出発した。
 そして、その悪い予感が的中した。
 3人が乗った車が事故を起こしたのは、翌日のことだった。ル=アーヴルの近くの海岸で、車は崖から落ちたらしい。14日の昼頃、ル=アーヴルの海岸で、ルネ=フェリーの遺体が発見され、事件が明るみになった。捜索の結果、車は海の中から発見された。が、ハンドルだけは見つからなかった。
 懸命の捜索にもかかわらず、ドクトゥールとシャルロットの遺体は、とうとう発見されなかった。
 その崖は、《自殺の名所》として知られる場所であった。そこから投身自殺する人が後を絶たず、飛び込んだ人の6割は遺体が見つからないと言われていた。がけの下の岩にあたって体がバラバラになってしまうか、波が荒いという悪条件からか、遺体が海岸まで運ばれてくることは滅多にないことだったのである。ルネ=フェリーの遺体が発見されたことは、奇跡に近い状況だったのである。
 警察は、一週間後、捜索を断念した。
 研究所の人たちも、遺体なしで葬儀を行うことを決めたのである。 
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