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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第2章

第31回

 クラリスが黙っていると、レヴィンは続けた。
「魚なんかほとんど釣れないよ。だいたい、ぼくの趣味はつりじゃない。だけど、クラウス=レヴィンは変わり者で、作曲よりつりが好きだと思われている。・・・これ、何だか知っている?」
 クラリスは自信なげに答えた。「・・・スケッチブック・・・?」
「クラウス=レヴィンは、魚釣りをする。ベートーヴェンが散歩をしたようにね。このスケッチブックは、いつでも身につけているんだ」
「・・・なぜ、わたしを待っていたの?」クラリスは、もう一度訊ねた。
「ただ、話がしてみたかっただけ。変わり者のクラウスと反逆者クラリスといったら、作曲コースの名物だもの」
「まあ、わたしって、そんなに悪名高いの?」クラリスは目を丸くした。
「その言い方ってないよ! それじゃ、ぼくも悪名高い、ってこと?」レヴィンが抗議した。
「でも、本当のことでしょ?」
 彼は怒った表情でかの女を見た。やがて、彼は笑い出した。「きみって、思っていたよりも堅い人間じゃないんだね」
 クラリスもほほえんだ。
「ところで、ここはきみだけの場所だった、と言ったね」
「レマン湖が大好きなの」クラリスが答えた。
「きみは、どこの出身?」
 クラリスの顔がくもった。それにはおかまいなしに、彼は言った。「ぼくはジュネーヴの生まれで、ローザンヌで育った。物心ついたときから、レマン湖を見て育ったんだよ。海はまだ見たことがないけど、湖は大好きだ。きみとはいい友達になれそうだね」
「ええ、そう思うわ」
 クラリスは手を差し出した。彼は握手に応じ、「クラウスと呼んで欲しい」と言った。
 クラリスはうなずいた。
 彼は、座ると、釣り糸をたれた。
「ところで、舟は好き?」
「・・・乗ったことはないわ」
「今度、沖でつりをするとき、小舟に乗せてあげようと思うんだ。きっと面白いと思うよ。ここにいると、波を目と耳とで感じるけど、体で感じる体験も、貴重な体験だと思うよ」
 その翌日、クラリスは練習室でピアノを弾いていた。スコアリーディングの練習だった。かの女が練習していたのは、ベルリオーズの「幻想交響曲」であった。そこへ、フリッツ=ウィーラントが現われた。
「・・・ベルリオーズかい?」
「ええ、フランキュイユ先生の授業の予習」クラリスが答えた。
「ああ、スコアリーディングね」ウィーラントがうなずいた。「それより、聞いた? コンクールの課題が発表になったんだよ」
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