年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第18章

第339回

 チャルトルィスキー公爵と結婚して幸せな生活を送ってきたナターリアにも気がかりなことがあった。彼との間に子どもがいないことと、フランスにいるはずの娘のことである。
 彼の方もブローニャを引き取りたいと願っていた。彼は子ども好きだった。ナターリアはスタニスワフスカ夫人にしょっちゅう手紙を書いた。公爵も、ときどきかの女に黙って手紙を出していた。しかし、フランスからは何も言ってこなかった。
 ところで、ナターリアには幼なじみの女性がいた。隣の家に住んでいたアントーニナ=オルシャンスカという女性である。かの女もあまり裕福ではない貴族の生まれだった。二人は、昔、ナターリアがフランスに留学するまで親友のようなつきあいをしていた。ナターリアが結婚してポーランドに帰ってきた頃、アントーニナもある指揮者の卵と恋に落ちた。彼はコンセルヴァトワールの生徒で、ヴァーツワフ=ロマノフスキーという名前だった。二人の間には、フェリックスという名前の息子がいたのだが、彼はフランスに留学して以来、二度と戻ってこなかったのである。二人は正式に結婚していなかった。ところが、彼は、フランスで作曲家の娘と知り合い、結婚してしまったという。アントーニナとフェリックスは捨てられてしまったのだ。ロマノフスキーの結婚を知ったかの女の両親は、彼を恨んで死んでいった。二人きりで残された親友を、ナターリアはできるだけ援助した。そのかの女も、1905年、肺炎をこじらせて死んでしまった。ナターリアは、親友の息子のフェリックスを引き取りたいと思った。
 公爵も、フェリックスを引き取ろうと思った。彼は、フェリックスの親戚を説得し、自分の手元に置くことを承知させた。彼は、まだ5歳だった。彼は、チャルトルィスキー家にやってくると、公爵夫妻を自分の両親のように思い、彼らになついた。
 公爵は、彼を自分の息子のようにかわいがった。彼は、使用人たちの子どもすべてをかわいがってきたが、フェリックスは別格として扱った。フェリックスには、家庭教師をつけ、貴族の子どもらしい教育を施そうと思ったのである。オルシャンスキー家は、下級貴族とはいえ、貴族の家柄だった。フェリックスは貴族として恥ずかしくない人間になって欲しい、それが亡き親友への餞だ・・・夫妻はそう思っていたのである。
 フェリックスには、年齢が一番近いエドゥワルド=ユリアンスキーという8歳の少年を勉強相手に選んだ。エドゥワルドは、自分が使用人の息子であるという立場をわきまえ、フェリックスを保護しようとしていた。二人は、本当の意味での友人にはなれなかったし、兄弟のようにもなれなかったが、それでも二人は仲良しだった。
 公爵は、ナターリアが二人の少年たちを愛しているのを見ると、どうしてもブローニャを呼び寄せたいと思った。かの女は口にはしないが、どんなに自分の娘と暮らしたいだろう・・・と同情していた。
 一方、ナターリアは、公爵が二人の少年たちを見つめていることに苦しんでいた。公爵は、きっと自分の息子が欲しいと思っているに違いない。どうして、二人の間には子どもが生まれないのだろう・・・?かの女は、そればかり考えていたのである。
 1907年夏、スタニスワフスカ夫人は、突然ブローニャを母親に返すことを決めた。
 公爵夫妻はその知らせを喜び、張り切って受け入れ態勢を整えた。彼は、ブローニャを正式にチャルトルィスキー家の養女とすることを決めていた。そして、使用人たちには、帰ってくる女の子を、チャルトルィスキー家の正式な後継者として、<王女さま>のように扱うようにと命じたのである。
 9月17日、チャルトルィスキー公爵の代理として、彼の乳兄弟で、右腕とも言われるイェジイ=ヴォイチェホフスキーは、その<王女さま>を出迎えるため、グダィンスクへと出発した。
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