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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第19章

第351回

 ポニァトフスキーは、女性の悲鳴と、衣擦れの音を聞き、はっとわれに返った。彼は、男をつかんでいた手を離した。
 そのとき、気を失う寸前だった男が、小さな声で言った。「あいつの名前は、クラークフのザモイスキー・・・フェリックス=ザモイスキーだ・・・」
 そして、男はその場に倒れた。彼も気を失っていた。
 ポニァトフスキーは、男の言葉を聞いてはいなかった。彼は、ナターリアを抱き起こし、中に運び込もうとしていた。
 憲兵が、男を連行しようとしていた。ポニァトフスキーは、この事件のことを誰にも話してはいけない、と口止めした上で、ナターリアを抱いたまま中に入った。この事件のことを、特に、シャルロットの耳には入れたくなかったのである。
 やがて、ナターリアは意識を取り戻した。かの女は、青ざめてふるえていた。もう、何も話せる状態ではなかった。そこへ、チャルトルィスキー公爵の馬車が戻ってきた。
 公爵は、外で憲兵たちに事件のことを聞いてきたようであった。彼は、ポニァトフスキーに礼を言った。外の騒ぎはすでに収まっており、コンサートが終了して外に出てくる人たちは、恐らく何も気づかないだろう。たぶん、シャルロットの耳にはいることはないだろう。
「・・・これでは、お話ができそうもないですね。明日伺います」ポニァトフスキーが公爵に言った。
「じゃ、10時にね」
 大きくうなずき、ポニァトフスキーは帰っていった。
 ナターリアは、一部始終を公爵に話した。公爵がそばにいることで、かの女も落ち着いてきていた。
 公爵は、ちょっと考えてから本当のことを話そうと思った。
「おまえが見たのは、サーシャじゃない。あれは、アレクサンドル=ポニァトフスキーという名前の別の男だと思いなさい」公爵は言った。「あの男は、自分の力以上の力を出して戦ったのだ。なぜならば・・・彼は、騎士だったから」
 ナターリアは首をゆっくり振った。
「おまえにはわからなかったんだね・・・。彼は、おまえを愛している。そして、おまえのために戦ったのだ、おまえを傷つけた相手とね。だから、彼は、本当の彼以上に残酷になれたのだ。あれは、彼の真実の姿ではない」
 かの女は、公爵の口に指をあてた。「でも、わたしが愛しているのは・・・」
 彼は、『言わなくてもわかっているよ』という表情でほほえんだ。
「わたしが狙われるのは、これが最初ではないし、これが最後でもない。残念だけどね。わたしは、死ぬのは恐くない。しかし、おまえやブローニャを巻き添えにしたくないんだ。そんなことができるとは思えないけどね・・・」
「死ぬのはいや! あなたは、死なないって約束してくれたわ」
「・・・悲しまないで、ナターシャ。わたしは、いつまでもおまえのそばにいるんだからね。たとえ死んでもね・・・」
 そう言うと、公爵はナターリアを抱き上げ、馬車に戻った。
 結局、フェリックス=ザモイスキーはつかまらなかった。一家は、このときから、常に暗殺の危険と隣り合わせの生活をすることになったのだった。
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