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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第2章

第34回

 1893年の夏休みも、4人組はシャンベリーのアレクサンドリーヌの家にいた。
 その夏は、アレクサンドリーヌの双子の姉ジュヌヴィエーヴも友人たちを招いていた。ただ、この二組の客は、広い屋敷内で顔を合わせるチャンスはなかった。最初の日に簡単に紹介した後は、完全に別行動だったのである。
 クラリスたちは、ピアノを弾いたり、馬に乗って遠出をしたり・・・という日々を過ごしていた。ジュヌヴィエーヴと友人たちは、外出するよりは、部屋で何か話をしていることが多かった。
 ある日、クラリスは部屋を出たとたん、赤毛の青年と衝突した。かの女は、手に持っていた五線紙を落としてしまった。青年は、拾うのを手伝おうともしないで行ってしまった。
 クラリスは、「まあ、なんて失礼な人でしょう!」と言って、五線紙を拾い始めた。
 それを見ていたアレクサンドリーヌが、手伝いながら言った。「あれは、ヴィーヴの恋人のアルトゥール=ド=ヴェルクルーズよ。試験に失敗していらいらしているんですって。今回は、大目に見てあげて、お願い」
 クラリスは楽譜を拾いながら考え込むように言った。「試験? 大学入試?」
「大学は、卒業しているわ。彼は、医者になりたいんですって。ヴィーヴもそうだけど。来年、また試験を受け直さなくてはならないんですって。大変ね、医者になるのも」
「卒業、って、わたしと同じくらいの年に見えるけど・・・?」
「たしか、一つ上ね。秀才で、大学は飛び級で入学しているのよ。お父様も医者で、あとを継ぐつもりなんですって。あの人、あの有名なロビー=カレヴィの弟なのよ」
「ロビー=カレヴィ、って、ピアニストの?」クラリスは、今度は感心したように言った。
「ええ、そうよ。あの人、フランショーム一族なのよ」
「・・・フランショーム一族?・・・ああ、前にナターシャが言っていた、あれね」クラリスは楽譜を並べ替えた。「現代の<ロミオとジュリエット>・・・悲劇的な失恋・・・とか」
 アレクサンドリーヌは、くすくす笑った。「そうね、彼がヴィーヴでなくてナターシャの恋人だったらよかったのにね」
 クラリスは笑わなかった。かの女は考え込んでいた。「・・・でも、あの人に、前にどこかであったことがあるような気がするんだけど・・・」
「ロビー=カレヴィに会ったんじゃないの?」
「いいえ、わたし、ロビー=カレヴィには、会ったことはないわ・・・」クラリスはまだ考え込んでいた。
「とにかく、彼は、人に謝らないことで有名なのよ」アレクサンドリーヌが言った。
 クラリスは、まだ考え込んでいた。どこで会ったのだろうか?
 それから2~3時間後、クラリスは再びアルトゥールに会った。かの女は、軽く会釈した。
 彼は、さっきのことなどすっかり忘れてしまったような顔をして挨拶を返した。
「こんにちは。あなたは、ザレスキー一族なんですね。一目でわかりましたよ」
 クラリスはあぜんとした。
 彼は、かの女が何も言えないでいることにも気づかないまま去っていった。
 クラリスは、ぼんやりとその後ろ姿を見つめた。「・・・ザレスキー一族、ってどういうこと?」
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