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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第20章

第356回

 その日は寒い一日で、細かい雪が降っていた。
 初めて<クラコヴィアク>のメンバーがそろうことになっていて、シャルロットは馬車でステファンスキー家に向かっていた。かの女は、ほかの二人を全く知らなかった。心細く思ったが、不安を顔には出さなかった。自分が不安なのを隠すため、かの女は窓の外を見つめていた。
 墓地の方に向かって歩いている一団がいた。シャルロットよりほんの少し年上に見える黒い髪の少年が泣いているのが見えた。とても悲しそうな様子にかの女は心を打たれ、思わず馬車を止めて外に出た。
「タージョ、前を見て歩きなさい。もう泣くんじゃありません。泣いたってどうしようもないんだから・・・」彼の母親らしい人がそばでそう言っていたが、少年は全く聞いていないようだった。シャルロットも知っていた。本当に悲しいときには、慰めの言葉さえ邪魔なものだ、ということを・・・。
 少年は、こぶしで涙をぬぐった。
 シャルロットは彼に近づき、黙ったままハンカチを渡した。少年は何も言わずに受け取り、涙を拭いた。母親らしい女性は、黙ったままシャルロットに頭を下げた。
「あのね・・・つらいときにはね、つらいからこそ、ほほえんでいなくてはならないんですって。悲しいときには、悲しいからこそ、泣いてはいけないのよ」シャルロットは少年にポーランド語でささやいた。
 少年は驚いて顔を上げた。彼は泣きはらして真っ赤になった目をシャルロットに向けた。シャルロットは、彼にほほえみかけ、馬車に戻った。
 少年と少女は、このできごとをずっと忘れなかった・・・。
 後になって、かの女は、あの一団が<クラコヴィアク>のチェリストになるはずだった少年の葬式に集まった人たちだったと知らされた。かの女は、このときの少年が、後のかの女の人生---いや、かの女とその娘の人生---に大きく関わってくることを、まだ、知らない・・・。
 シャルロットが到着したとき、ステファンスキー家の<音楽室>には、すでに全員そろっていた。
 シャルロットは、少年たちに紹介された。
 フリーデリック=ラージヴィルは背の高い少年だった。茶色に近いブロンドの髪は、短く刈りそろえられていたが、彼には短すぎるように見えた。この髪型のせいで、彼は実際の年よりずっと子どもっぽく見えた。ちょっと見ただけで、彼が賢い少年であることはわかった。しかし、彼には、賢い少年特有の冷たさは感じられなかった。すでに大人の声になりかかっていることが気になるらしく、彼はあまりしゃべろうとはしなかった。そのかわり、彼は、かの女を好意的なまなざしで見つめた。かの女は、彼のブルーの目がきれいだと思った。そして、その目はとても優しそうだった。
 スタニスワフ=レシチンスキーという少年の名前は、歴史の教科書に出てきたのと同じ名前だったので、かの女は一度で名前を覚えた。しかし、彼に会った人が絶対に忘れないのは、その名前ではなく、その姿であった。彼は、かわいらしい少年だった。やがて美男子と呼ばれることになるだろうと思われるような少年だった。彼は、フリーデリックとは対照的に長い髪をしていた。かたで切りそろえられたその髪だけを見ると、女の子を思わせた。
 不思議なことに、三人ともブロンドの髪で青い目をしていた。スタニスワフの髪は輝くようなブロンドであったが、そのブルーの目は、それを見た人に同情心を起こさせてしまうような悲しそうな色をしていた。
 フリーデリックとスタニスワフはよく知り合った仲らしかった。彼らは、さっそく2台あるピアノのそれぞれに座って、ポロネーズらしいものを弾き始めた。シャルロットはその曲を知らなかった。しかし、曲がポロネーズならば、必ず初めの部分が繰り返されるはずである。かの女は、中間部が終わるのを待っていた。そして、同じメロディーに戻ってきたとき、下のパートを弾いていたフリーデリックの隣で、さっきスタニスワフが弾いていたのと同じものを弾き始めた。驚いたスタニスワフが弾くのをやめても、さっきと同じ音楽が続いていた・・・。
 曲が終わったとき、フリーデリックがシャルロットにささやいた。「きみって、耳がいいんだね」
 シャルロットは、ほほえみながらささやき返した。「あなたって、本当に伴奏が上手なのね」
 フリーデリックは真っ赤になった。
 それを見たスタニスワフが言った。「ねえ、今度はぼくと一緒に弾いてよ」
 シャルロットは、スタニスワフの隣に椅子を持ってきて座り、さっきフリーデリックが弾いたパートを演奏した。
 大人たちは、彼らがうまくやっていけそうだと判断した。
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