FC2ブログ

年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第20章

第357回

 12月17日、自分のリサイタルを終えたシャルロットは、ステファンスキー家に<合宿>することになっていた。<クラコヴィアク>のデビューは、12月24日に決まっていた。彼らは、泊まり込みで練習することにしていたのである。
 アントーニ=チャルトルィスキー公爵は、シャルロットが家を離れていてよかった、と心から思った。
 かの女が家にいたら、あの事件のことが耳に入っただろう。ヴォイチェホフスキーの怪我のことで心を痛めるだろうと想像できた。かの女は、ヴォイチェホフスキーの不在さえ気づかないまま出発していったのである。
 ヴォイチェホフスキーの容態は、決してよくはなかった。彼の担当医は、若いタデウシ=クルピンスキーだった。タデウシは、作曲家のヤン=クルピンスキーの一つ年下の弟であった。二人は、フランスで勉強した。兄は作曲を、弟は医学を・・・。彼らは、全く違う性格だったが、仲のよい兄弟だった。
「チャルトルィスキー公爵、わたくしは、やれるだけのことはいたします。普通のかたならばきっとよくなる、と請け合いますが、彼は何と言ってもあまり若くはありませんので・・・体力があまりないようなのです」
「本当なら、わたしがこうなるはずだったのだ」公爵はうなだれて言った。「かわいそうなユーレック・・・」
 事件の翌日から、公爵は、一日に二回、必ず彼の様子を見に行った。しかし、よくなる様子は全くなかった。ヴォイチェホフスキーは、意識を取り戻さないまま横たわっていたのである。
 アレクサンドル=ポニァトフスキーは、毎日チャルトルィスキー家にやってきて、捜査の状況を説明して帰っていった。彼は、ナターリアの姿を見るのが目的だったのであるが、ナターリアは彼の前に出るのを拒否し続けたのである。彼の方は、ナターリアの体調がすぐれない、と聞かされ、気が気ではなかったのだが。
 クリスマス=イヴが近づいてきた。
 ある日、ポニァトフスキーは、門番のレシェク=トマシチェックを引っ張って公爵の部屋に入ってきた。
「おや、どうしたの?」公爵は書類の山から顔を上げ、案内もされずに入ってきたポニァトフスキーを見て訊ねた。
「この人を御存知ですね?」
「・・・知ってるよ。レシェク=トマシチェックだろう?」公爵はのんびりとした口調で言った。「わたしの名付け子だ。知らないはずはないだろう?」
「彼は、銀貨30枚であなたを売り渡そうとした張本人です」ポニァトフスキーは、きつい調子で言った。
「サーシャ、今はクリスマス前であって、復活祭の前じゃない。なぜ、ユダの話なんてするんだい?」
「わたしが話しているのは、犯罪の話で、宗教の話じゃありません」ポニァトフスキーは同じ調子でしゃべった。「彼は、事件に関与していると言っているんです」
 門番は真っ青になった。
 公爵は、穏やかな顔でレシェクを見ていた。「本当かね? おまえは、わたしに対して、裏切りをはたらいたのかね?」
「とんでもありません!」門番は否定した。
 公爵は甥を見た。「ほらね。これで宗教の時間は終わりだ」
 ポニァトフスキーは、いらいらしたように言った。「伯父さま、レシェク=トマシチェックがあの事件に関係ないという証拠はないんです。逆に、関係したという証言はたくさんあります。オーレリアン=ジェルマンは、コンサートのことを彼から聞いたと証言しています」
 門番は、その名前を聞くと、思わずふるえだした。
関連記事
 関連カテゴリ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
もくじ  3kaku_s_L.png データベース
もくじ  3kaku_s_L.png 設定
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
  ↑記事冒頭へ  
*Edit
  ↑記事冒頭へ