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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第20章

第360回

 やがて、スタニスワフはいたずらっぽく笑った。
「きみってすごいんだね、ブローニャ。あのクルピンスキー先生を怒らせるなんてね」
 シャルロットは青ざめていた。かの女は、クルピンスキーが怒ったのを見たのは初めてだった。彼がなぜ怒ったのか、かの女にはわからなかった。
 フリーデリックもほほえんだ。「彼はね、自分の言うことに逆らわれるのが、何よりも嫌いなんだ」
 シャルロットは、二人を悲しそうに見た。「わたし、彼に逆らったの?」
「まあ、そうなるだろうね」スタニスワフはおもしろがっていた。
 シャルロットの目から涙があふれ出した。少年たちは、驚いて笑うのをやめた。
「・・・謝ってこなくちゃならないわ・・・」シャルロットは泣き出した。
 フリーデリックはあわてた。「ごめんね、ブローニャ、もう泣かないで」
 彼は、ちいさな女の子に泣き出されたら、とんでもないことになると思ったのである。ところが、泣いているかの女を見ているうちに、彼は不思議な感情を抱いているのに気づいた。彼はなぜか優しい気持ちになった。この子は、自分が守っていかなければならない・・・。一人っ子の自分にはわからなかったが、妹を持った兄は妹に対してそう思うに違いない、彼はそう思っていた。彼は、かの女を慰めようと思った。
 フリーデリックは、シャルロットの肩に手を置いた。「ぼくが謝ってくるよ。きみは、ぼくのために彼を怒らせてしまったのだからね」
「いいえ、怒らせたのは、わたしだわ」シャルロットは涙を拭いた。「・・・ごめんなさい、もう泣かないわ」
「ぼくも悪かった。おどかしてごめんね」スタニスワフは、神妙な顔で言った。
「三人で謝ってこよう」フリーデリックが言った。二人はうなずいた。
 このできごとがきっかけで、彼らは急速に仲良くなった。
 コンサートは近づいていた。クルピンスキーは、彼らを特訓したが、そのほかにフリーデリックを特別に訓練した。彼らにはその理由が説明された。
「コンサートまでには、あと4日残されているだけだ。ブローニャには、まだ和声の知識がほとんどない。スターシは、ブローニャよりは作曲の経験があるが、それもたいしたことはない。しかし、フリーツェックは違う。フリーツェックは、スターシが生まれた頃から作曲を勉強しているんだからね。だから、今はフリーツェックを特訓するんだよ、リーダーとしてね」
 クルピンスキーには、ただ一つ認めたがらないことがあった。それは、フリーデリックには、作曲の才能があるということだった。このままいけば、将来は自分以上の作曲家になれるだろうというくらいのものすごい才能が。彼は、本当のところは、この弟子に嫉妬し、恐れていたのである。そして、彼を嫌い、避けようとさえしていたのであった。
 悪いことに、フリーデリックは、彼に嫌われていることは知っていた。しかし、どうして師が自分を避けようとしているのかには気づいていなかった。自分が作る曲が彼には気に入らないのだ、とだけ思っていたのである。そして、ステファンスキーも、フリーデリックとクルピンスキーとの間の不協和音に気づいていた。しかし、ステファンスキーにもこれだけはどうすることもできなかった。二人が自分たちで乗り越えなければならない壁だったからである。
 フリーデリックにとっては、新しい友人たちは、自分の理解者だった。そして、彼らの存在が、今の彼の慰めになっていたのである。
 コンサートは近づいていた。そして、三人の距離も近づいていった。
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