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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第20章

第361回

 12月24日の朝、チャルトルィスキー公爵は、いつものようにヴォイチェホフスキーの見舞いに出かけようとしていた。
 門のところに、一人の黒い髪の女性が立っているのに気づき、彼は馬車を止めさせ、窓から顔を出した。
「・・・きみは、マドモワゼル=ジェルマンじゃない?」公爵はフランス語で訊ねた。
 女性は黙ってうなずいた。
 公爵は馬車から降り、かの女のそばに立った。
「お願いです、教えて下さい。どうしてレシェクは死ななければならなかったのですか?」かの女はフランス語で訊ねた。
 公爵はかの女の真剣な問いに対し、こう言った。「きみに、どうしても来て欲しい場所がある。ついてきてくれるね?」
 かの女は黙ってうなずいた。
 二人は歩き出した。5歩ほど離れたところを、ユゼフ=ユリアンスキーが追従した。ほかにはボディーガードらしいものはつかなかったが、ユリアンスキーはピストルを隠し持っていた。彼は、銃の名手だった。
 公爵は、ユリアンスキーのところまで届かないくらいの声で言った。
「レシェクは、きみのことをとても愛していた。結婚したいと思うほどね・・・」
 かの女は立ち止まった。「やはり、オーレリアンなんですか、公爵さま? 彼があなたを狙ったから、レシェクは・・・? 違うんです。レシェクは関係ありません!」
「しっ!」公爵も立ち止まった。「お願いだから、もっと小さな声で話してくれないかしら?」
 かの女はうなだれた。
 二人はまた歩き出した。
 今度はかの女の方が先に口を開いた。
「あなたは、わたしが憎くはないのですか?」
「きみは、弟のためにレシェクに近づいたわけじゃないんだろう? それなら、なぜきみを憎まなくちゃならないの?」
 二人はまた黙り込んだ。
 やがて、かの女が訊ねた。「どこへ行くのですか?」
「最初は、スターレ=ミャストだ」公爵の答えは短かった。
 二人は、スターレ=ミャストの聖ステファン病院に着くまでは何も言わなかった。
 公爵は先に立ってヴォイチェホフスキーの病室に向かった。ちょうど中から医者が出てきた。タデウシ=クルピンスキーだった。
「まだ意識は戻りませんが、お会いになりますか?」
「ぜひ、そうしたい」公爵が言うと、医者は静かにドアを開け、去っていった。
 ヴォイチェホフスキーは。酸素吸入器をあてたまま、静かに横たわっていた。
「・・・死んでしまったのですか?」ミリアムがそっと訊ねた。
 公爵は首を横に振った。「本当なら、わたしがここにいるはずだった・・・」
 かの女は真っ青になってヴォイチェホフスキーを見つめた。そして、その目を公爵に戻した。公爵は悲しそうだった。かの女は思わず下を向いた。
「この人は、イェジイ=ヴォイチェホフスキー。わたしの身代わりになってくれた男だ。しかも、自分を盾にして妻を助けてくれた男だ。わたしにとっては、兄弟以上の存在だった」公爵は優しい口調で言った。「兄弟がいるのなら、こんな気持ち、わかってもらえると思うんだけど・・・」
「ええ、わかるような気がします。でも・・・わたしの弟は、この人を傷つけてしまったんですよね。そして、レシェクをも・・・」
 二人はまた黙ってしまった。
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