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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第22章

第397回

「あなたの目的は、お金なの?」シャルロットは、ザモイスキーを見上げて、子どもっぽい表情で訊ねた。
「いいや、われわれは作戦を誤った。われわれは、チャルトルィスキー公爵の部屋に入って、彼を暗殺するつもりだった。しかし、部屋を間違えたのだ」ザモイスキーは、シャルロットの表情につい油断して、本音をもらしてしまった。
 シャルロットは笑い出しそうになった。公爵の表情も、一瞬穏やかになった。そう言ったときのザモイスキーの表情は、ごく普通の19歳の少年のものだったのだ。ザモイスキーは、自分の失態に気づくと、不機嫌そうな表情になった。
「こうなった以上、あとは逃げるだけしか残されていないんでね。ガリツィアに戻るんだ。だから、お金がいるんだよ」
「わたしがあなたなら、顔を見られるようなへまはしないわ。部屋を間違うことはあってもね」シャルロットが皮肉を込めていった。「こうなった以上、あとは、わたしたちを殺すしかないんじゃないの?」
 ザモイスキーは顔をしかめた。「人質が、生意気言うんじゃない。生かしているのは、身代金が欲しいからだ。そうでなければ・・・」
「で、わたしは、いくらなの?」シャルロットは、公爵に尋ねた。
「500万マルクだ」公爵が答えた。
「安すぎるかね」ザモイスキーが訊ねた。
 シャルロットはくすくす笑った。「そうね。いずれ、そう思うようになるでしょうね。わたしは、ただの500万マルクじゃない。あなたたちは、絶対に逃げられないわ。捕まるか、死ぬか、どっちかだわ。だって、彼が、このワルシャワから無事にあなたたちを逃がすと、本気で思っているの?」
「思ってるさ。だから、あんたを人質にしたんだ」
「いいえ、違うわ。あなたたちは、絶対逃げられないわ。彼は、馬車にダイナマイトをぶつけてでも、あなたたちを逃がすはずはないわ」
 それを聞いて、ザモイスキーはほほえんだ。チャルトルィスキー公爵がそんなことをするわけはない、と信じ切っている表情だった。
「わたしが、ダイナマイトをぶつけるんだって?」公爵はシャルロットにささやいた。「おまえが乗っているのにかい?」
「どうしてできないの? わたしは、どうせ殺されるのよ。だったら、この人たちを捕まえるために死にたいわ」シャルロットも小さな声で言った。
「わたしには、できないよ、ブローニャ」公爵がもう一度言った。
「いいえ、やれるわ。やらなければならないのよ。この人たちは、あなたを殺そうとした人たちなのよ。ヴォイチェホフスキーさんを殺そうとした人たちなのよ。そして、わたしを殺そうとしている人たちなのよ。このまま逃げれば、さらにたくさんの人たちを殺す人たちだわ。わたしは、彼らを捕まえるためになら、死んでもいいわ。あなただって、わたしが本物の娘なら、わたしを犠牲にしてでも、この人たちの言うなりにはならないんでしょう? わたしが本物の娘なら、あなたには馬車にダイナマイトをぶつけることができるはずよ」
 公爵は小さく首を振った。
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