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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第20章

第365回

 ステージが明るくなった。そして、3人は打ち合わせ通りの順番で出て行った。
 集まった人々は、すでにシャルロットを知っていた。かの女は、<ブロニスワヴァ=スタニスワフスカ>を名乗っていた。この女の子が、あの悲劇のヴァイオリニスト、ウワディスワフ=スタニスワフスキーの娘であり、一週間前のデビュー=コンサートのあとで、口の悪い音楽評論家として有名なズビグニェフ=チェハンスキーから<20年に一人出るか出ないかというほどの才能の持ち主>というほめ言葉をもらったほどの子どもであることを、彼らはすでに知っていた。
 スタニスワフとフリーデリックは、ほとんど一緒に出てきた。スタニスワフが彼の身長とほぼ同じくらいのチェロを運んでいるうちに、フリーデリックが追いついてしまったのである。そのスタニスワフの頼りなさそうな様子が、かえって聴衆に受けた。スタニスワフはかわいい男の子だったので、チェロが重そうに見えたことで、よけい可愛らしく見えたのである。
 シャルロットの合図で1曲目が始まった。彼らが弾く最初の曲は、ショパンのピアノ三重奏曲だった。そして、2曲目にクルピンスキーの<クラコヴィアク>。これは、彼らのテーマ曲である。
 休憩が入り、3曲目は、ベックの<小品>が演奏された。これは、ピアノとチェロ二台のための音楽で、スタニスワフとフリーデリックがチェロを演奏し、シャルロットがピアノを弾いた。
 その後で、3人による即興演奏となった。クルピンスキーが一番恐れていた時間である。
 最初は、クルピンスキー自身が4小節のテーマを与えた。
 会場に声をかけ、客席にいた作曲科の学生が2曲目のテーマを決めた。
「これで最後にします。誰か、メロディーを下さいませんか?」フリーデリックは客席に向かって、ドイツ語で声をかけた。
 そのとき、一人のドイツ人の青年がステージに向かって歩き出した。彼は、シャルロットに紙を手渡した。
 シャルロットは、手帳をちぎったようなその紙を開き、ほかの二人のところに行った。そして、3人は、そのテーマでソナタ形式の曲を作り上げたのだった。
 コンサートが終わった後、さっきのドイツ人が楽屋を訪れた。そして、フリーデリックを捕まえた。
「わたしは、作曲家のユリウス=シュトックハウゼンといいます」彼が名乗った。「作曲家として、あなたがたがどのように曲を作るのかにとても興味があります。あなたがたの先生は?」
「ヤン=クルピンスキー先生です」フリーデリックが答えた。「さっき、1曲目のテーマをくれたのが彼です」
「クルピンスキーって、あの、フランスで活躍していた・・・?」
「ええ」
「わたしは、彼とは面識はないのだが・・・」そう言うと、彼はいきなり話題を変えた。「ところで、さっきの曲は、誰の作品?」
「ぼくたち三人のです」
 そのとき、そこを通りかかったシャルロットがシュトックハウゼンにほほえみかけた。「わたしたちみんなで相談して、曲を作りました。でも、フリーツェックがいなかったら、あんなふうにうまく作れなかったと思います」
 フリーデリックは思わず赤くなった。
「フリーツェック?」
「彼です。グループのリーダーなんです」シャルロットは、フリーデリックを信頼しきったまなざしで見つめながら言った。
 フリーデリックはさらに赤くなった。
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