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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第20章

第366回

「ほう? わたしには、きみがリーダーに見えたのだが、お嬢さん?」
「わたしが? いいえ、とんでもない。わたしたちには、彼が必要なのです。ですから、彼が自然にリーダーになりました。そして、わたしたちは、それを当然だと思っています」シャルロットが答えた。
 シュトックハウゼンは、フリーデリックの方を再び見た。「作曲家になりたいんじゃないかね? もし、その気になったら、いつでもヴァイマールへおいで」
「ありがとうございます。でも、ぼくは、ワルシャワを離れたくないんです」フリーデリックは丁寧に言った。
 シュトックハウゼンは、フリーデリックの耳元でささやいた。「・・・本当は、あの女の子と離れたくないんじゃないのかね?」
 フリーデリックはかわいそうなくらい真っ赤になり、シュトックハウゼンから離れた。
 そこへ、クルピンスキーがやってきた。「三人とも、よくやったね!」
 そして、彼はフリーデリックに何か手渡した。
 シュトックハウゼンは、クルピンスキーの前に出て行って、丁寧な口調でこう言った。
「あなたが、クルピンスキー教授ですね?わたしは、ユリウス=シュトックハウゼンと申します」
「ヴァイマール派のシュトックハウゼンさん?」クルピンスキーはびっくりしたような表情で確認した。
「ええ」
 二人は、子どもたちから離れた。クルピンスキーはシュトックハウゼンをどこかに連れて行ってしまった。
 フリーデリックは彼らを見送ると、クルピンスキーから渡された紙を開いた。それは、さっきの演奏を書き取った五線紙だった。それだけではなく、そこには赤いペンで、明らかな間違いがチェックしてあった。
「厳しいわね」シャルロットが後ろからのぞき込んだ。
「相変わらず、人をほめることをしない人間だな、彼は」これがスタニスワフのクルピンスキー評だった。彼は、そう言うと、チェロをケースに片づけるために行ってしまった。
「・・・仕方ないよ。間違いは、間違いなんだから」フリーデリックは肩をすくめ、諦めたような口調でシャルロットに言った。
 フリーデリックは一通り五線紙を見ると、それをシャルロットに渡し、自分も楽器を片づけに行った。
 一方、クルピンスキーとシュトックハウゼンは別室に移った。
「わたしは、フリーデリックくんを育ててみたいと考えている」シュトックハウゼンは、真面目な顔で言った。
「フリーデリックを? どうして?」
「三人の中で一番才能があるのは、間違いなくあのちいさなヴァイオリニストだろう。かの女は、きっと有名になる。ほかの二人は、チェリストやピアニストとして成功するのは難しいだろうと思う。まあ、伴奏ピアニストくらいはつとまるだろうけどね。しかし、フリーデリックくんには、作曲の才能がある。彼は、絶対に作曲家になる。それも、世界でもトップクラスの作曲家にね」
 クルピンスキーは、苦り切った表情で言った。「わたしは、あの子にはそんな才能があるとは思えない。彼は、ほかの子より、ちょっと器用なだけだ。彼は、すぐれた伴奏ピアニストになるだろう」
「あのかわいいヴァイオリニスト専属の、ですか?」シュトックハウゼンは顔をしかめた。「もったいないとは思わないんですか?」
 クルピンスキーは肩をすくめた。
「わたしがあなたなら、彼を作曲家として導くんですがね・・・」シュトックハウゼンが残念そうに言った。「もし、彼がその気になったら、ヴァイマールへよこして下さい」
 そして、この話はこれっきりとなった。
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