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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第20章

第367回

 クラコヴィアクのデビュー=コンサートは大成功だった。そのため、次の年の初めに、もう一度同じプログラムで追加公演をしなければならないほどだった。しかも、そのティケットさえ、2時間のうちに全部売り切れてしまったのである。
 コンサート=ホールに押しかけた人のうちの三分の一は、音楽に何の興味もない人たちだった。ほとんどが若い女性で、スタニスワフがお目当てだった。音楽が好きで見に来る人は、シャルロットのヴァイオリンか、フリーデリックのピアノを楽しみにしていた。
 1908年には、追加公演を入れて5回のコンサートを、同じ曲を一つも交えずに行った。1909年には、ワルシャワだけではなく、そのほかの地域で12回のコンサートを開いた。1910年にはガリツィアに行き、クラークフなどで7回のコンサートを開いた。この年は、全部で18回のコンサートを行った。
 ところが、1911年になると、2月にワルシャワで1回だけコンサートをしたきり、沈黙が続いていた。
 グループの沈黙の理由は、スタニスワフの進路問題だった。
 彼は10歳になっていた。彼の両親は、彼を音楽家にするつもりは全くなかった。教養ある豊かな心を持った人にしたいと思ってチェロを買い与え、金にまかせて一流の教師につけただけだった。たまたま才能を認められてピアノトリオなどをさせているが、彼らは、息子をロシアの学校へやって、官僚か何かにさせたいと思っていたのである。彼らの考えでは、もう<クラコヴィアク>は十分だった。そろそろ留学し、ちゃんとした勉強を始める年だ。スタニスワフは、そのことについて、両親と何度も口論を繰り返していた。彼が<クラコヴィアク>をやめることは、もう不可能だった。彼がいなかったら、グループは解散するしかなかった。それがわかっていて、彼にはやめることができなかったし、やめたくはなかったのある。
 6月の半ば頃、フリーデリックとシャルロットは、レシチンスキー家を訪ねた。フリーデリックとシャルロットは、スタニスワフに、グループをやめないで欲しいと頼みに行ったのである。
 スタニスワフは、二人を庭に案内した。
 レシチンスキー家の中庭には、見事なバラ園があった。スタニスワフは、普段はこの中庭にいることが多かった。それは、このバラ園に思い入れがあったからである。
 シャルロットは、白いバラの前で立ち止まった。
「きれいなバラね!」シャルロットは感心した。
「これは、この庭でも一番美しいバラだ。バラの女王と呼んでいい花だと、ぼくは思う。ただね、このバラには欠点がある。近くによってごらん、ブローニャ」
 かの女はバラを近くでじっと見つめた。「きれいねえ・・・こんなにすてきなバラ、見たことがないわ」
「どんな香りがする?」
 シャルロットは花の前でかがんだ。しかし、何も言わなかった。
「どうしたの、ブローニャ?」フリーデリックが訊ねた。
「・・・香りがないんだよ、これ」スタニスワフが二人に説明した。
「でも、香りなんかなくても、この花はすてきだわ」
「ぼくもそう思う」スタニスワフが同意した。
 フリーデリックもバラの方にかがんだ。それから、あたりを見回しながら言った。「それにしても、すばらしいバラだね。いったいどのくらい種類があるの?」
「32種、全部で80本のバラがあるそうだ。色は5種類。ほとんどが赤い花だけどね。兄さんのバラだった・・・」
「きみにお兄さんがいたとは知らなかったな」フリーデリックが言った。
「ぼくも覚えていないくらいだもの、1905年だったからね、彼が殺されたのは」スタニスワフが言った。
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