FC2ブログ

年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第20章

第368回

「殺された? 誰に?」フリーデリックはびっくりした。
「ロシア人たちにね」スタニスワフが答えた。
 フリーデリックは驚いて後ずさりした。
「兄さんは、テロリストだったそうだ。アレクサンドル=レシチンスキーは愛国者だった。ロシアで革命騒ぎがあったとき、ツァーリを暗殺しようと企てて失敗したんだ。彼は、捕まって投獄された。でも、仲間の名前はとうとういわずに死んだんだそうだ」スタニスワフが言った。
 シャルロットは青ざめた。かの女は何も言えずにうつむいた。
「この庭は、兄さんの形見なんだ。とくに、この白バラは<フィアンセ>と呼んでいたくらい好きだったそうだ。ぼくは、そのころまだ4つだったけど、彼がこれをどんなに愛していたか知っていた」
「・・・ぼくには、その気持ち、わかるような気がするな・・・」フリーデリックが言った。そう言ったときの彼の表情には、もう子供っぽさはなかった。彼は14歳だった。もう大人になりかかっていた子どもだった。
「どうして?」スタニスワフが訊ねた。
「ぼくが年を取ったからさ」フリーデリックが答えた。
 スタニスワフは寂しそうな目をした。「ぼくはね、この白バラの中に、どうしても兄さんを見てしまうんだ。バラの前でひざまずいていた、悲しそうな兄さんの姿をね。そして、彼のみどりの目を忘れることができないんだ。バラのシーズンになると、どうしても悲しさを紛らすことができなくなって、無性にここに来たくなるんだ。ここに来れば、余計に悲しくなるってわかっているのに、それでも引きつけられるようにここに来てしまう・・・。ここは、不思議なところだ」
 シャルロットは、4年前、ヴォイチェホフスキーが死と戦っている様子を見ていた。今、彼はすっかりよくなっていたが、それ以来、チャルトルィスキー家の人たちは、<テロリスト>という言葉をきくたびにつらい思いをしていた。彼らは、狙われる方の立場にいた。いつかまた、誰かがあのような目に遭うのでは・・・と考えることが多かったのである。彼らは、常に警戒していなければならなかった。ちいさなシャルロットにさえ、常に誰かがボディーガードとしてついていた。(このときには、彼らの話がぎりぎり聞こえないところに、ユゼフ=ユリアンスキーがいた。)そういうわけで、シャルロットには、スタニスワフの話にはどうしても同情できなかったのである。
「でもね」気づかないうちにシャルロットは口に出していた。「人を殺すのは、よくないことだわ」
「そうだね。でも・・・」フリーデリックは、かの女が何を言おうとしているのかわからなかった。
「じゃ、テロリストが殺されるのは当然だわ」
 スタニスワフは真っ青になり、まるで決闘を申し込むときのような顔になって叫んだ。
「殺される方にだって、過ちがある。だから---」
 ユリアンスキーが遠くの方で驚いているのがフリーデリックにもわかった。彼は、子どもたちが喧嘩を始めたら、止めようとしているようだった。フリーデリックは、ユリアンスキーの手を借りなくても、喧嘩くらい何とかなると思って、二人を止めに入った。
「二人とも、やめなさい!」フリーデリックが言った。
 スタニスワフは、珍しくむきになっていた。「死者を侮辱することは、決して許さない!」
 シャルロットも一歩も引かなかった。「あなたは、命を狙われたことがないのね。だから、殺される人の気持ちなんてわからないのよ。わたしは、何も悪いことなんかしていないわ。それなのに、わたしたちは、いつだって命を狙われているわ!」
 二人は、険悪な雰囲気のままにらみあった。
関連記事
 関連カテゴリ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
もくじ  3kaku_s_L.png データベース
もくじ  3kaku_s_L.png 設定
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
  ↑記事冒頭へ  
*Edit
  ↑記事冒頭へ