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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第20章

第372回

 さて、部屋に戻ったシャルロットは、さっそくヴァイオリンを出した。かの女は、調弦をすませ、ヴィエジェイスキーから出された課題にとりかった。
 クラコヴィアクの練習がない日々が続き、かの女は自分の練習がはかどっていた。今は、スイス人のコラン=ブルームという作曲家が作ったヴァイオリン=コンチェルトの練習を始めたところだった。ブルームという作曲家は、二つのコンチェルトを残している。今練習しているのは、始めに書かれた方のコンチェルトだった。彼は、病弱な人だったので、33年の生涯でほとんど曲を残していない。第一番のコンチェルトは、彼が二十歳のときに作曲されたものだった。その曲を作曲し始めたきっかけは、医者の言葉だった。『きみは、あと10年は生きられないだろう・・・』---それを聞いた彼は、遺言状を書こうと思った。それが、このコンチェルトだった。
 シャルロットは、そのエピソードを師から聞かされたとき、どうしてもこのコンチェルトを演奏したいと強く願った。この自分も、あと10年生きられるかどうかわからない。いつ殺されてもおかしくない状態で、4年間生きている。こんな極限の状況なら、この作曲家の気持ちが少しでも理解できるのではないか、と思ったのである。
 突然、ノックの音がした。
 演奏中には、誰も入ってこないことになっているのに。シャルロットはむっとして弾くのをやめた。
 入ってきたのは、師のヴィエジェイスキーだった。
「あら、どうしてヘル=エッフェンベルガーがお休みなのがわかったんですの?」シャルロットは不思議そうに訊ねた。
「実は、来る前にナターリアに確かめたんだ」ヴィエジェイスキーは上機嫌だった。「・・・本当は、ここを偶然通りかかったら、ヴォイチェホフスキーさんが事情を話してくれた。伝言するより、じかに伝えたら、って言うんだ」
 シャルロットはうなずいた。
「決まったんだよ!」ヴィエジェイスキーが嬉しそうに言った。
「決まったって、何がですか?」
「外国遠征さ。クラコヴィアクがベルリンに行くんだよ!」ヴィエジェイスキーが言った。「8月3日と6日。それからケーニヒスベルクで8月21日に、グダィンスクで8月25日だ」
「ケーニヒスベルクですって? すてきだわ!」
「きみは、ザレスキー一族だものね。ケーニヒスベルクに一度行ってみるのも悪くないんじゃない?」
「嬉しいわ」シャルロットは心の底から言った。
「今度は、フェリックスくんも連れて行く。これからプログラムを決めなくてはならない。フェリックスくんを入れて、弦楽四重奏をすることを検討したい」
 シャルロットは首をかしげた。「わたしは嬉しいけど、公爵が何とおっしゃるかしら。わたしだけじゃなくて、フェレックもなんでしょう?」
「大丈夫、計画ができあがったら、公爵夫妻にはちゃんと説明するよ。心配いらないよ」彼はまだ上機嫌だった。
「これから、どこかへ行かれるんですね? もし、そのあとで時間があったら、レッスンしていただけますか? 今日は、ヘル=エッフェンベルガーがお休みなので、時間がたくさんありますの」
「もちろん!」ヴィエジェイスキーが答えた。「じゃ、またあとで。フェレックにも伝えておいてね」
 彼は、嬉しそうに元気よく出て行った。彼は、すでに成功を確信していたのである。
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