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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第21章

第379回

「ヴォルフィは、ぼくの犬だぞ!」少年はむきになって言った。
「ヴォルフィ、行きなさい」シャルロットは犬を少年の方に向けて押し出した。犬は踏ん張ったあげく、シャルロットの足下に戻ってきた。
「ヴォルフィ!」少年は絶望的な声を出した。
 シャルロットは仕方なく、子犬を抱き上げ、少年に渡した。
「ありがとう。ところで、きみたちは外国から来たんじゃない?」少年が訊ねた。
「ワルシャワから来たの」シャルロットが答えた。
「ワルシャワって、南の方じゃなかったよね、確か?」少年は首をかしげた。「きみは、オーストリア人みたいなアクセントで話すんだね」
「わたしの家庭教師がオーストリア人だからかしら?」シャルロットが言った。
 少年は、上を見上げた。「きみの家庭教師は、犬を見ると、木に登るように教えているの?」
 フリーデリックはふきだした。
「彼は、外国では、子犬を見ると木に登ることになっているかどうか聞いているわ」シャルロットはフェリックスにポーランド語で言った。
「ばか言うんじゃないよ!」フェリックスは情けない声で言った。「お願いだから降ろしてよ!」
 フリーデリックは仕方なく木に登り、フェリックスが降りるのを手伝った。
「あなたって、ユーモアのセンスがないわね」シャルロットは、少年たちが木から下りるのを見ながら言った。「ヴォルフィが帰りたがらなかったのは、きっとそのせいだわ」
「きみこそ口が悪いポーランド人だね」少年が言い返した。しかし、その口調は優しかった。「ぼくはギュンター=ブレンデル。きみは?」
「ブロニスワヴァ=スタニスワフスカよ。彼は、スタニスワフ=レシチンスキー」
 ギュンターはそれを聞いて、彼らが冗談を言っているのだと思った。スタニスワフ=レシチンスキーというのは、歴史の教科書に載っている名前である。なるほど、何らかの事情で本名を名乗りたくないんだな、この人たちは・・・と彼は思ったのである。そして、彼も気づかないふりをしようと思った。
「・・・歴史の教科書に載っていた名前と同じだね」
「それから、今木に登っていったのがフリーデリック=ラージヴィル。木の上にいるのがわたしの兄のフェリックス。彼は、犬が苦手なの」
 これが、シャルロットとギュンター=ブレンデルとの最初の出会いだった。
「ぼくも、旅行者みたいなものだな。今、フランスの学校に行っているんだ」ギュンターが言った。
「あら、フランスなの? わたし、5歳までフランスにいたのよ。ル=アーヴルって知ってる?」
「もちろん。大きな港町だ」ギュンターが答えた。
「わたしは、祖母とその町で暮らしていたの。あなたは、パリに留学しているの?」
「いいや。北フランスのノルマンディー地方の小さな町だ。ミュラーユリュードっていうんだけど」
「ミュラーユリュード?」シャルロットが繰り返した。初めて聞く地名だったが、知っているような気がした。それで、口の中でもう一度つぶやいた。何かを思い出そうとするかのように。
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