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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第21章

第382回

「きみたちのアイドルに対して失礼なことを言ったとしたら、友人にかわって謝るよ。彼は、彼らの悪口を言ったわけじゃない。彼は、正確にはこう言ったんだ。『ヴァイオリニストは、ソリストとして十分やっていけるだけの実力がある。ピアニストは、演奏よりも作曲に力を入れれば、ポーランドには第二のショパンが誕生することになるだろう。それなのに、あの二人はあんなことをして、貴重な時間と才能とをつぶそうとしている。彼らには、ほかにやるべきことがあるんじゃないかと思っている』---これが、彼の持論さ。もし、きみがクラコヴィアクを知っているなら、この意見をどう思う?」
「チェリストのことを無視しているのが許せないわね」シャルロットは、本筋とは関係ない感想を述べた。
「チェリストは、ハンサムなだけなんだそうだよ」
 シャルロットはむっとした。「あなたは、ぜひ、あしたのスターシの演奏を聴くべきね。そして、フランスに戻ったら、お友達に言ってあげて。《きみの考えには、全面的には賛成できないな》って」
「そう? そんなに言うなら、そうなのかな?」ギュンターは首をかしげた。「ところで、きみたちは、ここに何しに来たの?」
「休暇に決まってるじゃない」シャルロットが答えた。「貴重なお休みよ」
 シャルロットは、質問の答えをはぐらかした。<ここ>と言う言葉を、わざと<ベルリン>ではなく<ハーフェル湖>と解釈したのである。
 ギュンターもほほえんだ。「そうだね、夏休みだよね。ぼくは里帰りだけど、きみたちは外国人だものね」
 ボートを下りたところに、写真屋がいた。フリーデリックはお金を払い、写真を5枚撮ってもらった。撮影が終わってから、シャルロットはフリーデリックに言った。
「ねえ、フリーツェック、彼も明日の<クラコヴィアク>のコンサートを見に行くんですって」
 シャルロットの表現が<見に来てくれる>ではないことに、フリーデリックは気づいた。
「ほんと?」フリーデリックも、ギュンターが自分たちの正体に気づいていないことがわかった。「じゃ、あした、会場でまた会えるかも知れないね」
「犬を連れてこないでね」フェリックスが言った。
 彼らは笑い出した。スタニスワフを除いて。
 そのうちに、写真ができた。5人は、1枚ずつ好きな写真を受け取った。
「今日は、どうもありがとう。じゃ、さようなら。いや、またあした、かな?」ギュンターはそう言い、フェリックス以外の全員と握手した。
 そのときになって、スタニスワフがやっと口を開いた。「Auf Wiedersehen(さようなら)
 スタニスワフが覚えたドイツ語は、これだけだった。ギュンターは、スタニスワフがこれまで話をしなかったのは、彼がドイツ語をしゃべることができなかったからだということに、やっと気がついたのである。
 ギュンターは、ほほえみを浮かべ、スタニスワフに向かってたどたどしいポーランド語でこう言った。
「きれいなことばですね、Auf Wiedersehen(さようなら)ということばは!」
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