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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第21章

第387回

「ブローニャって、オルガンが弾けるの?」少年が嬉しそうに口をはさんだ。
「コーステック! 静かにしていられないのなら、降りてもらうよ」シュナイダーは、階段を指さし、息子をフランス語でしかった。
「メランベルジェを知ってる?」シュナイダーは、今度はドイツ語でフリーデリックに訊ねた。
「いいえ、存じません」フリーデリックが答えた。
「わたしは、そのメランベルジェの弟子だった」彼は懐かしそうに話し出した。「彼は作曲家だったが、生きていた頃は、むしろオルガニストとして有名だった。彼は、教会でオルガンの前に座っていることが多かった。彼の弟子だった人の大部分は、彼を思い出すとき、オルガンを弾いている彼の姿を思い出すだろうね・・・。彼は穏やかな人で、自分のことより他人のことを優先して考えることができる人だった。彼が死んだとき、わたしなんかは、世の終わりが来たような気分になったものだ・・・」
 少年はくすくす笑った。その話は、父親から何度も聞かされているらしい。
「彼は、晩年になってから、すぐれた作品を書き始めた。もちろん、若い頃から曲は書いていたけど、若い頃に書かれた作品は、ほとんどが破棄されてしまったらしい。彼は、残すに値する曲だけを残したんだ。彼が、彼らしい作品を書き始めたのは、死ぬ前の15年前くらいからのことだ。もし、もっと長生きしていたら、きっと音楽史が塗り変わっていただろうね」
 フリーデリックは、彼の話に興味を持った。
「彼は、『作曲なんて人から習うものじゃないよ』と口癖のように言っていたが、彼のところには、次々に弟子たちが集まっていった。たとえば、フランソワーズ=ド=ラヴェルダン、ベルナール=ルブラン。死んでしまった人で言えば、エドゥワール=ロジェ、クラリス=ド=ヴェルモン・・・。ポーランド人で言えば、ヤロスワフ=ベックが彼の門下だった。この集団は、アンリ=ロランの弟子たちとは、犬猿の仲でね・・・。そうそう、ヤン=クルピンスキーは、そのロランの弟子だったね」
 フリーデリックは驚いた。「でも、ベック先生とクルピンスキー教授は・・・?」
「共通の師---ボレスワフ=ステファンスキー---がいたからね、彼らには」
 フリーデリックはうなずいた。
「ところで、何の用だったかな?」シュナイダーが訊ねた。
「ぼくは、あなたに会いたかっただけです。でも、今の話を聞いて、お願いがあります」
「どんなこと?」
「あなたは、さっき、フランスで誰かについて勉強した方がいいっておっしゃいましたね? その誰かって、いったい誰のことか教えて欲しいんです」
「あなたは、フランソワーズ=ド=ラヴェルダンに作曲を学ぶべきだ」シュナイダーが言った。「わたしには、かの女に紹介状を書けるだけの面識がない。だから、ヤロスワフ=ベックを訪ねるといい。ベックに宛てた紹介状は、ステファンスキー教授にお願いするといい。わたしからも、ベックに紹介状を書こう。ベックの目が狂っていなかったら、彼は自分から進んでラヴェルダン女史を紹介するだろう」
 シュナイダーはペンを取ると、手紙を書き出した。その間、少年はフリーデリックを尊敬するように見つめていた。手紙ができると、彼はフリーデリックにそれを手渡した。
 フリーデリックはお礼を言い、階段を下りていった。
 少年は、フリーデリックがほかの子どもたちのところに行くのを見た。
「パパ、スターシとブローニャも来ていたんだよ、すごいね!」少年の声ははずんでいた。「ブローニャってとってもかわいい子だね。絶対に、噂以上じゃない? ぼく、あんなひとと結婚できるといいな。ねえ、ブローニャは、やっぱりスターシと結婚するのかな? あの二人、とっても仲がいいんだってね。でも、ああやって3人ならぶと、ブローニャとフリーツェックの方がお似合いだと思うんだけどなあ・・・」
 シュナイダーは息子をしかりつけた。「そんなばかなことを言っていないで、片づけるのを手伝っておくれ、コーステック!」
 少年は渋々オルガンの方に向き直った。
「いつか、おまえもフランスに行きなさい。そして、有名な作曲家になるんだよ。おまえにも、それだけの力があるはずだ」シュナイダーが言った。「わたしたちは、もう何代も続く音楽家の一家の末裔だ。おまえは、きっと有名になる。そして、彼らと友達になるんだ」
「ぼく、有名な作曲家になりたい、フリーツェックと同じくらいに。そして、いつか、ブローニャにぼくの作品を演奏してもらうんだ」少年はうっとりとした口調で言った。
 この少年は、将来、この夢を実現することになる。
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