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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第21章

第388回

 クラコヴィアクのメンバーにとって、5回目のクリスマスがやってきた。
 フリーデリックは、自分にとってクラコヴィアク最後のクリスマスだ、と考えていた。彼は、グディニア旅行で自分の進路に結論を出していた。自分が本当にやりたいのは、演奏することではなく、作曲することであるということがわかったのがあの旅行だった。そのためにフランスに行くべきだということもわかった。
 しかし、その話を彼から最初に打ち明けられたボレスワフ=ステファンスキー教授は、彼にもう少しピアノを続けるように勧めたのである。もし、その気があるのなら、ウィーンのレシェティツキー教授に紹介状を書こうと提案した。レシェティツキーは、世界的に有名な超一流のピアノ教師だった。フリーデリックの心はぐらついた。レシェティツキーのもとで学べば、もしかするとピアニストとしての未来が開けるのではないだろうか?
 シャルロットは、フリーデリックが何やら悩み事を抱えていることに気がついていた。クリスマス=パーティで、来年はウィーンかパリに行こう、と上機嫌で話すクルピンスキーを見ながら苦い表情をくずさないフリーデリックを、かの女は不思議に思った。
「・・・どうしたの? あなたは嬉しくないの?」シャルロットがそっと訊ねた。
「・・・ごめん。考え事をしていた」フリーデリックが言った。「今、クルピンスキー先生の<ワルシャワ郊外の冬の日>のことを考えていたものだから。あんなに長い曲、本当にぼくに弾けるのかな、ってね」
「弾けるさ。だから、きみを指名したんじゃないか」後ろでクルピンスキーが言った。
 フリーデリックは驚いたように彼を見た。まさか彼に聞かれるとは思っていなかった、という表情だった。
 それを見たシャルロットは、フリーデリックが本心を語ったわけではないと気がついた。かの女は気になって質問しようとしたが、そのときスタニスワフがクルピンスキーに曲のことを質問したので、チャンスを失ってしまった。
 帰るときになって、シャルロットは馬車を待ちながら、なにげなくフリーデリックに近づいた。
「ねえ、フリーツェック、本当のことを言ってくれない?」
「ぼくがきみに何か嘘でもついたというのかい?」フリーデリックは怪訝そうな顔をした。
「わかるわよね。さっきのことよ。あなたは、何か隠しているわ。今日だけではなく、グディニアから帰ってきてからずっとよ。ねえ、何があったの?」シャルロットが訊ねた。
 フリーデリックはシャルロットを見つめた。
「きみには、隠し事ができないというわけかい? ぼくには、きみに何でも話さなければならないような義務でもあるというの?」
 シャルロットは、フリーデリックの皮肉な口調に驚いた。かの女は思わず赤くなったが、どうして自分が赤くなったのかわからなかった。「いいえ。ただ、気になったの。それだけよ・・・」
 シャルロットは、彼に背を向け、フェリックスの方へ歩き出そうとした。
「ブローニャ」フリーデリックが呼び止めた。「あんなふうに言って、すまなかった」
 シャルロットはびっくりして振り返った。そして、フリーデリックがつらそうな表情を浮かべていたので、思わず彼の方に近づいた。
 フリーデリックもかの女に近づいた。そして、その耳元でささやいた。「ぼくは、留学することにする」
 シャルロットはショックを受けたように立ち止まった。そして、フリーデリックを見上げた。「いつから?」
「まだ決めていないけど、たぶん、夏までにはね」
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