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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第22章

第396回

「じゃ、正義とは、何?」シャルロットが口を出した。
 ザモイスキーは、びっくりしたようにシャルロットを見た。
「あのね、この世には、正義なんてないわ。正義だとされる主義があるだけだわ」シャルロットが続けた。
 ザモイスキーは、面白そうにシャルロットを見た。「あんたが、噂の<クラコヴィアク>のブローニャかい?」
「その主義のために殺されるなんて、殺される理由としては最低ね」シャルロットは、聞かれたことには返事せずに続けた。「特に、巻き添えになった人にとってはね。このヴォイチェホフスキーさんは、4年前、あなたのせいで死にかけたのよ」
「あのとき---われわれが作戦をしくじったときに、だね?」彼は同じ調子で言った。「関係ない人を巻き添えにするな、ということなら、そうしよう。この人は、必ず自由にしてやるよ。人質は、一人で十分だからね」
「それなら、お嬢さまを自由にしてくれ」ヴォイチェホフスキーが言った。
「いや、それはだめだ」彼は冷たく言った。
「・・・わたしたち、死ぬの?」シャルロットが訊ねた。
「この人は、無事に帰すよ。約束する」ザモイスキーが言った。
「わたしは死ぬのね、あなたの<正義>のために」
「たぶんね」
「チャルトルィスキー公爵が、あなたたちにいったい何をしたというの?」シャルロットが訊ねた。
 そのとき、ナターリア夫人の部屋の側のドアをノックする音がした。
「誰だ?」ドアのところにいた男が、低い声で、ポーランド語で訊ねた。
「アントーニ=チャルトルィスキーだ」外の声が言った。落ち着いた、いつもの声だった。
 シャルロットは、はっと息をのんだ。
「本物か?」ザモイスキーは、シャルロットの頭にピストルを突きつけ、ヴォイチェホフスキーに向かって訊ねた。
 ヴォイチェホフスキーが口を開くより前に、シャルロットが答えた。「ええ、間違いないわ」
 ザモイスキーは、ドアのところにいた男に合図した。
「一人で部屋に入ってくるのだ。いいか、一人きりだぞ。逆らったら、人質の命はないと思え」ドアのところにいた男が言った。そして、彼はドアを開けた。
 チャルトルィスキー公爵が入ってきた。開いたドアから、ナターリア夫人とフェリックスたちが心配そうにこちらを見ているのがシャルロットから見えた。入り口に立っていた男が、公爵の身体検査を終え、合図を送った。
 もう一人の男が、ヴォイチェホフスキーを外に出し、ドアを閉めた。
 シャルロットは、ザモイスキーの制止を振りきり、公爵に抱きついた。
「あんたが、チャルトルィスキー公爵なんだね?」ザモイスキーが訊ねた。
 公爵はシャルロットの頭を優しくなでながら、ザモイスキーを見つめた。「そういうきみが、フェリックス=ザモイスキーだね?」
「そのとおり」彼は自信たっぷりに言った。
 公爵は青ざめていた。しかし、いつもと同じ優しい口調で言った。「ブローニャをはなして欲しい。9歳の女の子を人質にするのはやめてくれないか?」
「それはできない。この子が一番効果的な人質だからね。ところで、こっちが出した条件をのむのか?」ザモイスキーが訊ねた。
「ブローニャを自由にしないのなら、できない」公爵も譲らなかった。
「かの女は、われわれの自由が保障されないうちは、自由にするわけにはいかない」ザモイスキーがくりかえした。「金は用意できたのか?」
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