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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第22章

第400回

 シャルロットは、ユゼフ=ピウスツキーという人物について、詳しいことは知らなかった。このとき、彼は社会主義グループのリーダー格の人物だった。後に英雄と呼ばれ、人々に愛される存在となり、やがて軍事クーデターで政権を取り死ぬまで政治家として生きた人物だった。
 ところで、クルピンスキー医師は社会主義者が嫌いだった。彼にとって社会主義者とは、社会の風紀を乱す人たち、もしくはテロリストだった。憎悪の中に、そうした人々に対する恐れの気持ちが混じっていた。シャルロットのまわりにいる人たちの大部分が、クルピンスキーに近い気持ちの人たちだった。
 シャルロット自身も狙われる方の立場にいたので、そんな意見が正しいと思って育った。しかし、今、かの女は本物のテロリストを見て、自分の先入観がぐらついているのを感じていた。今になって、かの女はいつかバラ園で、スタニスワフとのテロリスト論議を思い出し、スタニスワフにすまないことをしたと思った。彼が兄を懐かしむ気持ちを、少しだけ理解した。アレクサンドル=レシチンスキーも、きっと、自分が信じていた<正義>にしたがって生き、そして死んでいったのだろう・・・。
「きみが、フェリックス=ザモイスキーをかばうとはね。一番ひどい目に遭わされたきみが・・・」医師は憤慨したような口調で続けた。
「一番苦しんだのは、パパだわ。そして、たぶん、フェリックス=ザモイスキー自身よ」
「・・・何というお人好しだ」クルピンスキーは半ばあきれていった。
「あなたは、ザモイスキーを知らないからそう言うんだわ。わたしは、決してピウスツキーをかばわないと思うわ。でも、ザモイスキーは違う。いいえ、違うと思いたいわ」
「きっと、半年後には、きみはそう思ったことを後悔するだろう。わたしは、賭けてもいいよ」クルピンスキーは自信ありげだった。
「・・・あのね、わたしは、信じたいのよ。わたしは、人間の真心を信じたいの」シャルロットが言った。
「テロリストというのは、そういう人たちじゃないよ。彼らは、こちらが右の頬を出さなくても、左の頬だけではなく命も奪うような人だ」
「それでも、信じたいんです」
 クルピンスキー医師はシャルロットをじっと見つめた。「その誠意で、人が動かせるかどうか、わたしには疑問だがね」
「でも、ザモイスキーは、わたしを助けようとしてくれたんです!」
「なぜだろう? わたしなら、彼に何か下心があったからじゃないか、とまず考えるけどね」
「いったいどんな下心があったというの?」
「わからない。でも、わけもなく助けるだろうかね、テロリストが?」彼は首をかしげた。「そもそも、彼はきみを助けたのではないのかも知れないとは思わないのかい?」
「助けてくれたんじゃない・・・って?」
「きみは、彼にとって<盾>だったんだよ。彼は、人質が欲しかったのさ」
「そんなことないわ。だって、パパは、わたしが乗っていた馬車にダイナマイトを投げたのよ」シャルロットは言い返した。「わたしは、人質の役割を果たしていなかったのよ」
「公爵は、きみを殺すつもりはなかった。当然だろう、誰だって、自分の子どもは一番かわいいからね」彼はうなずきながら言った。「・・・しかし、きみって、本当に子どもなんだね」
 クルピンスキー医師が部屋を出たあとも、シャルロットは一人で考え込んでいた。
 彼は、どうして自分を殺さなかったのだろう?
 いや、どうしてあのとき、自分を助けようとしたのだろうか? 彼だって怪我をしていたし、逃げるなら一人のほうが楽なはずなのに?
 かの女には、答えが出せなかった。
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