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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第二部」
第22章

第406回

「嘘だ!」男は決めつけた。
「医者は、スターシの死因を心臓麻痺だと言いました。つまり、水に飛び込んだとき、彼の心臓は、ショックに耐えられなかったんです。それなのに、どうしてブローニャに責任があるといえるのですか? どこにかの女が悪いという証拠があるんです? あなたは、レシチンスキー伯爵より頑固な方なんですね」
「きみだって頑固じゃないか。チャルトルィスキー家に買収された医者を信じろと言うのかね?」
「買収された・・・!」墓守は絶句した。
 やがて、墓守はため息をつきながら言った。
「まもなく、ブローニャがやってきます。スタニスワフの墓の脇の大きな木の陰にでも隠れて、かの女を見ているといいですね」
 男はその場を去った。その足取りからすると、かなり憤慨しているようだった。しかし、男は墓守の助言通りにしようと思ったらしかった。彼は、木の陰に隠れ、シャルロットを見ていようと思った。
 まもなくシャルロットたちがやってきた。かの女は、いつものように墓守に対して軽く頭を下げた。そして、いつものようにそこを一人で通過した。エドゥワルド=ユリアンスキーはいつものようにその場に留まった。
 かの女は、あの事件の怪我が完全には治っていなかったので、頭に包帯を巻いていた。男は、そんなかの女を冷ややかに見つめていた。彼は、かの女がやつれて見えるのは、その怪我のためだけではないことに気がついた。彼が知っているかの女は、明るい表情をした、いかにも子どもらしい女の子だった。しかし、深刻な顔をして虚ろな目をしているかの女は、昔と同じ女の子には見えなかった。スタニスワフの死が、ひとをこんなにも変えてしまうとは、彼にも想像できなかった。
 シャルロットは、そばに人がいるとは気がついていないようだった。今のかの女の様子なら、そばに立っていても気がつかなかったろう。かの女は墓にバラを置いた。そして、ほとんど聞こえないくらいの声で言った。
「わたし、また来てしまったわ。あなたに許してもらおうと思って・・・。でも、きっと、許してはくれないんでしょうね・・・」
 シャルロットはその場にひざまずいた。かの女は両手を組んで無言で頭をたれていた。その姿勢でほとんど一時間近く泣いていた。さすがの彼でさえ、そこから出て行ってかの女を慰めたいと思ったほどだった。しかし、彼は強い意志でその場に留まった。彼も一時間近く、黙ったままその様子を眺めていた。
 やがて、かの女は涙を拭いて立ちあがった。小さい声で「明日もまた来るわね」と言って、その場をあとにした。振り返りもせずにゆっくりと歩いて行った。その後ろ姿には、かの女の悲しみが表われていた。『スタニスワフを失って悲しいのは、あなただけじゃないんです』とかの女に言われたような気がして、彼は頭を強く殴られたように感じた。
 3時の鐘が鳴った。
 墓守は、さっきの男が出てこないのを心配して、スタニスワフの墓の前にやってきた。
 男は、墓の前で無言で祈っていた。そのときになって、墓守は、彼がレシチンスキー伯爵その人であると確信したのだった。
 人の気配を感じて男は振り返った。そして、墓守に言った。「ありがとう」
 墓守は、歩き出した男の後ろ姿に向かって声をかけた。「・・・レシチンスキー伯爵?」
 男は振り向いた。寂しそうな表情だった。「・・・人違いじゃないのかね?」
 そして、男は行ってしまった。
 彼は、待たせていた馬車に乗ると、一言「チャルトルィスキー邸へ」と言った。
 彼が乗った馬車は、歩いていたシャルロットたちの脇を通過していった。彼は、それに気づいていなかった。
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